しかしそう悲観だけする必要はない。両首脳が「択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島における日本とロシアによる共同経済活動に関する協議を開始することが、平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得るということに関して、相互理解に達した」(プレス声明より抜粋)ことは、前向きに捉えてよいのではないか。何しろ四島での共同経済活動は18年前に唱えられて以来、全く進まず、これまで領土問題の糸口にもなってこなかったのだ。むしろそれを協議しようとすればするほど、日露の立場の違いが鮮明になり、主張は行き別れになった。古いアイデアに今あらためてチャレンジするというのは、目的を完遂する覚悟がないとできない。
スプートニクは旧ソ連およびロシア政治の専門家である法政大学の下斗米伸夫教授に話を伺った。下斗米教授は、今回の日露首脳会談を「一種のリセット」だと評価する。
下斗米教授「1956年の日ソ共同宣言から60年が経ち、今回の日露首脳会談で一種のリセットができたと思います。共同経済活動を軸に、自由往来などの形で、旧島民と現島民が共存共栄をするという考え方ができたのですから。そして、両国の主権の主張、お互いの立場を害さない特殊な法的形態のもとでの共同経済活動を目指すという意味では、非常に新しいアプローチです。私はこれを前向きに評価します。」
四島の共同開発自体は、エリツィン政権時代、当時のプリマコフ外相が1996年に来日した際に提案したものだった。その2年後には当時の小渕恵三首相がロシアを訪問。「日露間の創造的パートナーシップに関するモスクワ宣言」に署名し、どのような共同経済活動ができるか可能性を探ることになったが、頓挫した。下斗米教授は、当時と今回では、国のリーダーの「腰の入り方が違う」と話す。
下斗米教授「当時は政治的な意思、気持ちが入っていたとは言えません。今回は安倍首相とプーチン大統領が、共同経済活動の条件や形態について協議を開始することの保証人となり、声明も出たわけですから、政治の腰の入れ方が違います。それに加え、8項目の日露経済協力を基にした大小様々なプロジェクト締結に代表されるとおり、周囲の環境も変わりました。北方領土での共同経済活動は、平和条約締結交渉のための梃子になり得ます。」
安倍首相は16日に報道番組に出演した中で、共同経済活動について「日本法でもない、ロシア法でもない仕組みを作れる」と述べた。始動の可否はまさに、日露双方が受け入れられる制度設計ができるかどうかにかかっていると言えよう。サハリン州のコジェミャコ知事は、17日に北海道の高橋はるみ知事と会談し、諸島と北海道の間に直航便を飛ばすというアイデアを提案し、クリルには日本側と協力できる事業が多数あると話した。日本の企業関係者、そして元島民のためにも、まずは日本本土と四島の交通の便が迅速に改善され、共同経済活動の足がかりになることを期待したい。