そのうち最もオフィシャルな性格をもった大規模なイベントは、「北方領土返還要求全国大会」で、今年は新国立劇場で開催された。主催は北方領土返還要求全国大会実行委員会(北方領土返還要求運動連絡協議会、地方六団体、内閣府により構成)で、1981年以来、毎年2月7日に都内で行われている。この会には安倍首相、岸田外相を始め政府や各界の関係者、そしてもちろん元島民が参加した。第一部の「トーク」では、NHK解説主幹の石川一洋氏や千島連盟の脇紀美夫理事長らが最近の日露関係について話し合い、共同経済活動にも言及がなされた。
北方領土返還要求全国大会の司会を務めた落語家の三遊亭金八さんは、元島民二世。父親は歯舞群島・志発島(ゼリョーヌイ島)出身だ。会場には立ち見も出て熱気と緊張感が漂っていたという。金八さんは「世代によってロシアに抱く感情は様々。交流、北方領土での混住、友好というキーワードが出てきますが、元島民の中には、ソ連に辛い目に合わされ、ロシア人と混住はしたくないとシビアな考えを吐露する人もいます。しかし二世、三世の人たちはビザなし訪問を通してロシアとの関係を深めよう、実を取ろうとの考えがあり、返還運動の前面に立つ世代が変わってきていると感じます」と話す。第一部の「トーク」については、「膨らみのある会話でした。今までは具体的な未来の話などできませんでしたから」と評価する。
![三遊亭金八師匠 三遊亭金八師匠 - Sputnik 日本](https://cdn1.img.sputniknews.jp/img/331/58/3315872_0:0:2952:2054_600x0_80_0_0_2f86dd31cff014f2de2ac77d0e7836e4.jpg)
一くくりに元島民と言っても、ソ連占領後にすぐ脱出した人もいれば、ロシア人と混住していた人もいる。混住当時の年齢や期間によっても、ロシアに対する感情は異なり、一概に言えない。例えば北海道根室振興局・谷内紀夫副局長の母親は島がソ連に占領された直後、国後島を脱出。財産を一方的に奪われ、ロシア人に対して良い感情はなかった。しかし息子である谷内氏自身は、四島に住むロシア人住民との交流に熱心に取り組んでいる。
金八さんはビザなし交流にも参加し、ロシア人島民との親交を深めている。昨年、択捉島で行われた着物ショーでは、自ら着物を持参して巨漢のロシア人に着付けをした。北方領土寄席でメディアの取材を受けることも多いが、自身は「領土問題関係者の前で『北方領土寄席』と銘打って笑いが取れても、そのネタはまだまだ。なんでもない瞬間にそのネタが出てきて笑ってもらえれば、それこそ本物」と話し、あくまで落語家、芸人としての部分にこだわる。なんと、「小噺をロシア人に向けてロシア語でやりたい」という動機でこれからロシア語を習う予定だ。
![択捉島着物ショー、女形披露で大笑い 択捉島着物ショー、女形披露で大笑い - Sputnik 日本](https://cdn1.img.sputniknews.jp/img/331/59/3315979_0:443:3648:2736_600x0_80_0_0_97595815993b6ac6e7c68c42d13360d1.jpg)
![択捉島着物ショー、即席で能を披露 択捉島着物ショー、即席で能を披露 - Sputnik 日本](https://cdn1.img.sputniknews.jp/img/331/59/3315926_0:49:800:552_600x0_80_0_0_b1a1db59cbe921942454d84aa85e8402.jpg)
さて、2月7日に在日本ロシア大使館前で抗議活動をしているのが、いわゆる右翼団体と呼ばれるグループだ。そのうち大日本愛国党は、党の創設者である赤尾敏氏が存命のときから、「全千島列島と南樺太は日本のもの」だと一貫して主張してきた。赤尾氏は、日本で初めて街頭宣伝車を導入した人物としても有名である。大日本愛国党の舟川孝総本部長は、全千島列島・南樺太の返還を掲げる根拠は「ポーツマス条約」だとして、次のように話している。
舟川さん「1905年、日露戦争の講和条約としてポーツマス条約が結ばれ、これにより南樺太と千島列島は日本の領土となりました。これ以降、日ソ間および日露間で、条約によって領土を取り決めた事実はないのです。日本が1951年のサンフランシスコ条約で南樺太と千島列島を放棄したというのは、『連合国』に対してです。例えば米軍が南樺太にいたりするのであれば、まだ理解できるのですが、なぜロシアが占拠しているのでしょうか。それにソ連はサンフランシスコ条約への署名を拒否しました。そもそも日本は連合国と戦争をしたのであって、ソ連とではありません。日ソ間には日ソ不可侵条約が締結されていましたが、ソ連は一方的に破棄したのです。つまり最後に結ばれたのがポーツマス条約である以上、現ロシアに対して、不正な占拠をやめ、領土を返すよう求めているわけです。」
昨年12月にプーチン大統領が来日し、日露首脳会談が行われたが、舟川さんは「全く何の進展もなくショックと怒りをおぼえました。メディアは、首脳会談後すぐにでも平和条約・二島返還が行われるのではないかという勢いで報道しましたが、蓋を開けてみたら経済協力の話だけでした。私たちの立場からすると、大変がっかりしています。」と失望を隠さない。
しかし舟川さんは意外にも「ロシア人のことを恨んでいるわけではない」と話す。「日本とロシアが仲良くできればよいですが、国家の主たる主権である領土の返還なくして、真の友好・友情関係を築くことは不可能です」と、あくまで領土の返還が先だとの見方を示している。
![午後6時、ロシア大使館前の人影はまばら 午後6時、ロシア大使館前の人影はまばら - Sputnik 日本](https://cdn1.img.sputniknews.jp/img/331/58/3315818_0:0:1200:900_600x0_80_0_0_fb74e3d73b70459d9571227ca2f7209c.jpg)
さて今日7日、政府レベルでは「共同経済活動関連協議会」が設置され、初会合が開かれた。岸田外相が座長、世耕ロシア経済分野協力担当相が座長代理に就任し、3月にも予定されている日露間の公式協議に向けて、各省庁の関係者が集まり、準備が進められている。