モスクワに多数ある日本料理のレストランで日本酒を飲むことはできるし、フランス系大手スーパー「アシャン」などでも紙パックに入った日本酒を買うことができる。しかし種類は圧倒的に少なく、ワインやシャンパン、ビールやウォッカなどと比べると、酒としての市民権を得ているとは言えない。ましてやこれまで、モスクワっ子が日本酒について詳しく知ることのできる機会はなかった。
日本酒セミナーは日本酒について学びながら、テイスティングもできるという贅沢な企画だ。ロンドンを拠点に日本酒ソムリエとして活躍し、日本酒のPRおよび教育事業「Museum of Sake」を展開している菊谷なつきさんのレクチャーのもと、参加者は7種の酒を試飲した。
日本酒セミナーに続き、宮城県塩竈市の蔵元によるプレゼンテーションも行われた。「浦霞」醸造元である佐浦の佐浦弘一社長は、第13代目の当主である。日本では、酒に限らず何百年と暖簾を守り続ける老舗が数多く存在しているが、これもロシア人を魅きつける要素のひとつである。担当者によると、宮城の酒では仙台伊澤家・勝山酒造の「純米吟醸 献」もロシア人の口に合っており、評判が良いという。
米どころ新潟も負けていない。コシヒカリも生産しつつ、酒造りに携わる「蔵人」でもある岸田健さんは、今回初めてロシアを訪問。ロシア最大級の食品見本市「PROD EXPO」に参加し日本の食文化をアピールした。岸田さんは「日本酒の試飲にあたってウォッカと同じようにキュッと一気に喉に流し込んでしまう人がいて、驚いた」と話す。ワインのように、味わって飲むという日本酒の飲み方から知ってもらうことが課題である。並行して行った新潟米の試食も好評だった。ロシアの米は炊きたては美味しいが、冷めるとパサパサになり、おにぎりを作るとバラバラになってしまう。新潟のコシヒカリは冷めても粘りがあるので、岸田さんは「弁当・おにぎりの需要も将来的に出てくるのではないか」と見る。
スプートニクは日本酒セミナーを特に熱心に聴講していた夫婦に話を聞いた。大学医学部の准教授として働いていたエレーナ・ワシリエワさんは、年金生活に入ったことをきっかけに自分の会社「アミリス」を立ち上げた。エレーナさんの夫セルゲイさんは元外交官で、かつて日本で働いていたこともあり、一家揃って日本びいきだという。
ワシリエワさん「日本酒の情報が興味深く、他の人に話したくなりました。レストランでただ単に飲ませるのではなくて、その酒の由来や歴史についてお客さんに話すことができたら、とても面白いでしょう。ロシアは中小企業が自力で発展するチャンスはまだまだ小さいと思います。なので、他の中小企業と組むことが大変重要です。セミナーに参加し、日本企業は非常にオープンで、ロシア企業と働く準備ができているという印象を持ちました。これからパートナーを見つけて、一緒にやっていければと期待をもっています。」