こうした統計はロシア人やヨーロッパ人にとっては総じて驚きだ。というのも、ロシアや多くの欧州諸国では、有休消化後でさえも、大多数の勤労者がすすんで休暇を取るからだ。労働能力の高さで有名なアジア諸国の人々が、当然の権利である休暇に対して罪悪感を抱くのはどうしてなのだろうか?この疑問について、ロシアと日本で臨床業務を行う心理学博士で、モスクワ心理分析研究所教授のナデジダ・マズロワ氏がスプートニクに見解を語ってくれた:「これは国民性だけではなく、おそらく子ども時代からの計画的な教育によるものでしょう。生まれたときから「泣いてはいけない、他人に迷惑をかけてはいけない」と言われ、小学校でも「先生の言うことを聞きなさい、礼儀正しく行動しなさい」と言われてきた子どもは、大人になったとき、周りと違って見えることや、自分の行動で誰かに迷惑をかけること何よりも恐れるようになります。このような心構えが意識の中に深く刻まれているため、正しい行動をしている、完璧な仕事をしているという感覚のみが心の安寧をもたらすことができるのかもしれません。何らかの規則にほんの少しでも違反したこと、あるいは、不完全な仕事をしてしまったことに対する罪悪感は、文字通り、パニック発作を引き起こしかねません。意識のレベルではすでに「自分は国に借りがある、会社に借りがある。会社が私に借りがあるのではない」という考え方ができあがってしまっています。おそらくこれが理由で、多くの勤労者が、たとえ今、当然の有給休暇をもっていたとしても、それを取ることに依然として落ち着かない感覚を抱くことが少なくないのでしょう。」
もうひとつ興味深い事実がある。日本は交通機関内の忘れ物の数で世界一なのだ。精神的にも体力的にも文字通り「燃え尽きた」人々は、通勤途中、完全に眠ってしまうからだ。
さらに驚くべきことは、プレジデント誌によると、一方で「休養不足」を感じている人の割合が最も少ないのが、他でもない日本なのだそうだ。どうしてこんな現象が起こるのだろうか?ナデジダ・マズロワ氏は次のように言う:「人が考えていることと感じていることの間には、幾分の不一致があるからかもしれません。意識や心構えのレベルでは、休養したと感じることは可能です。しかし、多くの人が夜ごとにリラックスできなかったり、眠れなかったりするのです。そして、アルコールもしくは錠剤といった、何らかの安定剤が必要だと訴えます。それでも、意識のレベルではそんなことは感じておらず、分厚い壁があるのです。」
このように、ロシア人の感覚からするとほんの少ししか休養していないように思えても、日本人は十分快適に感じているのである。休暇に対するロシアと日本での考え方の違いについて、元在日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏がスプートニクに語ってくれた:「日本では、主に年金をもらうようになってから、本格的に休養や旅行を始めます。しかも日本人は、例えばロシア人のように、ただ砂浜に寝転がったり泳いだりするだけで、他には何もしないで休暇を過ごすということはしません。休暇で外国に来た日本人は、何かしら新しいことを知り、できるだけ多くのものを見るために、常にひとつの都市から別の都市へと移動を続けます。おそらくそれが理由で、彼らは数少ない休暇日数で十分だと感じるのではないでしょうか。」
今や、働き過ぎの文化は日本政府を真剣に悩ませる問題となっており、政府は国民を過労の危険から守るため、もっと休養するように動機づけようと努力している。現在、日本は労働者がせめて年に5日は有給休暇をとるよう義務づけることを考えている。