もしかしたらそれは、体育の授業と関係があるのかもしれない。スプートニクは、サンクトペテルブルグにあるゲルツェン記念ロシア国立教育大学・体育スポーツ研究所三年生の今村祐也さんに話を聞いた。今村さんはこの春、5週間にわたって教育実習に参加。1年生から11年生までを対象に一日3~4コマの授業を行った。(ロシアの学校は、日本でいうところの小中高が全部一緒になっており11年生は高校二年生に相当する)ロシアの体育の特徴はみっちり基礎体力をつけさせることだ。
今村さん「小学校二年生から既に、腕立て伏せ、スクワット、懸垂、三段飛びなどをやります。リレー競技や球技、縄跳び、整列・順列などの授業を行いました。毎回の授業後には、授業態度やノルマ達成率などを考慮して5段階評価で点数をつけ、ひとりひとりの点数を全員の前で発表します。甘くつけると指導教官から『甘くつけすぎ』と言われ、厳しくつけると子どもたちからブーイングが起きますから、板ばさみです。8~10年生の男子がふざけて指示に従ってくれなかったり、授業中に泣き出す子をなだめたりなど、ハプニングもありました。」
日本で実技科目の教師になるのは難しい。特に中高保健体育は、東京都では約13倍、大阪府では約10倍の狭き門である。それと比べるとロシアの方が少し簡単なようだ。ロシアでは日本の教員採用試験にあたるものはなく、きちんと単位を取り、大学の三年次に教育実習に参加していれば、大学四年生から公立学校で教鞭をとることができる。採用先の学校は自分で見つけることもあれば、教授から推薦してもらうこともある。自分の母校に戻って教壇に立つ人も多い。
何人かのロシア人に体育の思い出について聞き取りを行ってみたところ、ロシアの体育は歴史的にずっとスパルタだったというわけではないようだ。ソ連崩壊直後に小中学校時代を過ごした世代は、ボールを渡されて、適当にサッカーをして体育の授業が終わっていたこともあった。学校にゴールポストが一つしかないなど、設備も制度も色々な意味で適当だった。雪が降っていないのにアスファルトの床でスキーをしたという珍エピソードも飛び出した。どうも体育が本格的に厳しくなってきたのは最近のことらしい。
教育実習ではロシアの先生たちと教育談義を交わすこともできた。子どもたちも可愛く、部活動にも飛び入り参加して、とても楽しかったという今村さん。今まで自分は教師には向いていないと思っていたが、「機会があればロシアの学校で教えたい」と、考えが変わったという。