まず韓国は、安全保障政策で米中の板ばさみになっている。朴槿恵前大統領が自国領内への配備を受け入れた米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)について、文氏は選挙戦で「新政権が判断するべきだ」と訴え、明確に賛否を示してこなかった。そんな文氏に対し、中国の習近平国家主席は11日の電話会談で、THAAD配備反対を重ねて表明した。奥薗氏は「どんなに中国が反対しても、THAADの撤去はまずあり得ない」とみる。
奥薗氏「韓国の安全保障は米韓同盟を基軸に成り立っているので、文氏本人も、撤去が困難なことはよくわかっています。中国も、いくら韓国を締め上げたところで、韓国が本当にTHAADを撤去できるとまでは思っていないのではないでしょうか。ではなぜ中国は韓国を責めるのか?中国は、韓国にTHAADの件で圧力をかけ続けることにより、韓国世論の分断を図っているのです。韓国世論が、中国との経済関係を大事にしたい親中派と、米韓同盟を機軸にした安全保障重視の親米派に分かれれば、米国からみた韓国の信頼度は低下します。このようにして日米韓の連携を揺るがすことこそが、中国の狙いだと思います」
ここ数か月で北朝鮮をめぐる情勢が激しく動いていたにも関わらず、韓国は大統領不在のため蚊帳の外に置かれていた。選挙中、一貫して北朝鮮との対話を主張してきた文氏だが、奥薗氏はその実現に疑問符を示す。
奥薗氏「結論から言えば、南北対話が再開されたとしても、北朝鮮との関係改善はそう簡単に進まないでしょう。韓国の革新系政党は伝統的に『当事者である韓国と北朝鮮の関係改善で朝鮮半島問題を主導し、そこに周辺国を巻き込んでいきたい』と考えています。韓国が目指すのは、具体的には、金剛山観光再開と、開城工業団地の再稼動です。観光再開はなんとかなるかもしれませんが、工業団地再開は難しいと思います。なぜなら米国は今、北朝鮮の外貨稼ぎを防ぐため、北朝鮮労働者を雇用した外国企業にも制裁を加えようとしているからです。開城工業団地を再開したら、何万人もの北朝鮮労働者が韓国企業で働き、多額の外貨が北朝鮮にもたらされることになります。現在、国際協調の枠組みの中で、中国やロシアさえもが北朝鮮に圧力をかけようとしているのに、それと逆行するようなことを韓国が簡単にできるとは思えません。その国際協調の枠組みを作る働きかけの先頭に立ってきたのは他ならぬ韓国自身と米国なのです」
奥薗氏「韓国では、政府間合意に国民の7割以上が不満をもっており、国内の反発が強すぎて、合意を守りたくても守れないというのが実情です。基本的には平行線をたどる以外にありません。ただ、文陣営の中には、『急進的強硬路線』と『現実的柔軟路線』の二つが共存しています。現実路線の立場に立つ人々は、日韓合意に関して『再交渉』という言葉は使いたくないと言っています。日本がそれに応じないことは明らかだからです。彼らは、慰安婦合意の存在は事実上認めた上で、それを履行していくための補完措置や後続措置を求めるという形をとってくるでしょう。日本側も『自分達にできることはもうやった。あとは韓国の国内問題だ』と突き放すのではなく、合意を前提として更に何ができるかを真剣に検討し、韓国が国内を抑えることができるような環境作りに協力すべきだと思います」
奥薗氏「大統領が弾劾・罷免され、朴政権への国民の怒りに後押しされる形で生まれたのが文政権ですから、前政権との違いを国民にはっきりと見せる必要があります。しかし社会の格差をうまく解消することができず、THAADをめぐる米国との板挟みで悪化した中国との経済関係の回復も十分に果たせず、さらに北朝鮮との関係改善も思うように進まないとなれば、独自色を出す見せ場がありません。そんな中で、対日関係が、国民の不満をなだめる唯一の『材料』として利用されてしまう事態を懸念しています。文政権内部の対日強硬路線と現実路線のせめぎ合いの中で、日韓関係は変わってくるでしょう」