トランプ大統領は、約束した通り、自分達の最も近い同盟国との関係の完全な見直しを行い、オバマ前大統領の遺産を完全に捨て去った。米国とサウジアラビア及びイスラエルとの関係を、あらゆる形で緊密化させた。オバマ時代、これらの国々との関係は、修復不可能な損失をこうむったと思われていた。先に、多くの懸念を払拭するように、トランプ大統領が、日米の軍事政治同盟のゆるぎなさを確認したことに注意を促したい。NATOとの軍事的政治的関係の意義についても、大統領は「ヨーロッパまたは北アメリカにおける1以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する」とのNATO憲章第5条への忠誠について、月並みな誓いをしなかったが、それを確認している。
つまり米国の同盟国のすべては、これまで通りであり、トランプ大統領は、約束した通り、オバマ流の気取りもなく、そうした国々とgive&takeの原則に基づき関係を築いている。サウジアラビアとは、武器供与に関する1兆1千億ドルもの巨額の合意を結んだ。またトランプ大統領は、恥じらうことなく、EU諸国に対し、軍事支出に関する分担を求めた。日本について言えば、安全保障への貢献というテーマが再び出てくるのではないか心配である。補償が別のものになるかもしれない。いずれにせよ、トランプ大統領は、自身のツイッターの中で歴訪を総括し、大成功だったと自画自賛している。
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 31 мая 2017 г.
しかし肝心なのは、トランプ大統領が、何が脅威かについて断固たる立場を示したことだ。その主なものとされたのは、オバマ前大統領が国連の演壇から世界に訴えたグローバルな温暖化や移民流出、エボラ出血熱の蔓延そしてロシアではなく、テロリズムだった。
その意味でトランプ大統領は、節度を示したと言える。EUサミット前すでにイタリアで、彼はロシア批判の境界線を示し、それを事実上、NATOのパートナー諸国に提案した。「制裁は続けられる」がそれ以上はしないという姿勢だ。NATOサミットそしてG7首脳会議の総括文書の中でも、これに関し何も新しいことは言われなかった。もちろん「ロシア経済を粉みじんにする」とか「クリミアに対する巨大な代償を支払わせる」といったオバマ前大統領のような物言いも何もなかった。いずれにしてもロシア政府は、トランプ大統領がロシアに対し攻撃的だという感じは持たなかった。むしろ、彼は、大統領選挙キャンペーン時のように、少なくともロシアとの実務的対話を再開したいと考えているのではないか、またアメリカでは、トランプ大統領がロシア政府と関係を持っているとして、彼の信用を失墜させようとの前代未聞のキャンペーンが展開されているが、とにかく彼は、米国内でのそうした大きな圧力に負けるつもりはないだろうとの印象が生まれている。別の言葉で言えば、トランプ大統領は、ロシアに触れることは抑え気味だが、プーチン大統領と会談するという選挙中の考えを捨てていないという事だ。もちろんそれは米国の利益のためにである。その事を彼は理解している。まず第一に、それはテロとの戦いのためであるが、それだけではない。
ロシア科学アカデミー米国カナダ研究所の学術的指導者セルゲイ・ロゴフ氏は、第3回国際会議「ロシアと中国:二国間関係の新たな質を目指して」で発言し、次のような考えを述べた。
北朝鮮問題がどういった結末を迎えるかに関係なく。米中関係に存在する矛盾は、前面に出てくると思う。中国との戦争のシナリオは、米国の専門家達を夢中にさせている。
もちろん、対中戦争という考えは、多くの点で投機的なものだが、アジア太平洋地域へ再び米軍部隊を派遣する事ついて、誰も取り消していない。同時に、米国との『ビッグ・ディール』に関しては、トランプ氏の当選後、かなり積極的にモスクワの専門家の間で討議された。しかし習近平国家主席が米国を訪問し、トランプ大統領と会談した後、すっかり静かになってしまった。」
現在、反ロシア・ヒステリーという諸条件の中で、トランプ大統領が、プーチン大統領と建設的対話に打って出るためには、米国民の大多数が受け入れられるような、普通とは違った大胆な考え方や方策が必要だろう。
それゆえ、ロシアを中国封じ込めに引き入れる際、トランプ大統領は、自分達の優先的な同盟国である日本に、どういった役割をやらせようか考えているのではないか? 日本も、モスクワ-北京枢軸強化に神経を尖らせている。極めてヘビーなコンテクストの中で、日本にとって、それはどんなプラスがあるのだろうか? 今すでに明らかなことは、露日平和条約をめぐる対話にプラスになるのでは、という事である。