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そんなバーリノフさんが今「夢中」になっているのは、家具づくりだ。ある時、友人から家具屋で仕事をしないかと声をかけられた。はじめは家具の配達を担当した。その後はおよそ60人の職人を抱える家具屋のオーナーとなったが、家具を仕入れて売るだけでは物足りなくなり、自分も家具づくりを始めた。そして今は信頼できる職人たちとオーダーメイド家具をつくっている。大量生産ではなく、世界に一つしかない家具だ。また家具の修理も行っている。例えば、100年以上前の貴重なアンティーク家具のみならず、特に高価でもなくもう処分するしかないようなボロボロのソファー、脚などが折れてしまった椅子やテーブルなども蘇らせている。どうしてなのか?家具には思い出があるからだ。小さい頃に面倒をみてくれた祖母がいつも座っていた椅子、家族みんなで囲んだテーブル… 他人にとってはゴミでしかないようなものでも、そこには思い出が詰まっている。ロシア人たちは、そのような「愛着」を大切にする。
バーリノフさんは、この仕事で収入を得て生活しているが「お金のために働いているんじゃないんだ。皆からの『ありがとう』が嬉しいんだ」と語る。だから仕事の質には徹底的にこだわる。
モスクワ南部にアトリエを構え、休日もとれないほど注文が次々と入る人気家具屋のバーリノフさんだが、経済不況の影響ですべてを失い、途方に暮れて毎日泣いて暮らした時期もあったという。だがバーリノフさんは言う「俺は立ち止まらない。人生とは常に穏やかな時期が続くわけではない。でも俺は先へ進み続ける。行動すること。それが人生なんだ」と。
人と接するのが大好きだというバーリノフさんは、特に若者に優しい。辛いこと、悲しいことをたくさん経験してきた。だからバーリノフさんは、まだ何も知らない純粋な心を持った若者たちが騙されたり、裏切られて傷つくことがないようにとアドバイスをする。そして彼らが人としての心を忘れることなく、自分らしく生きていくことを願う。バーリノフさんからは、懐の深さや人間的な温かさが感じられる。