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代表の角田寛和さんは、「Thank you Russia」と書かれたブレスレットを緊張した面持ちでいじっている。角田さんは今日、6月にサッカーW杯へ出発する生徒たちと初めて会うのだ。福島県の人々は震災発生後にいち早く支援に訪れたロシアに今も感謝している。
今から7年前、角田さんはボランティアには懐疑的で、慈善活動に取り組もうとはしていなかった。だが2011年3月11日の恐ろしい地震と津波、そして福島第1原子力発電所事故後にすべてが変わった。
震災から10日後、角田さんは人道支援が必要なことを知った。そして靴屋を経営していた角田さんは、靴を持って被災地に赴いた。そこから角田さんのボランティア活動が始まった。被災地には100回以上訪れ、たくさんの縁ができたことが今も断続している理由の1つだ。
2014年、サッカーの大ファンである角田さんは、宮城県の被災した子供たちをサッカーW杯ブラジル大会へ招待することを思いついた。ボランティア団体「Smile for Nippon」や心の温かい人々のサポートにより、子供たちをW杯へ招待するために必要な資金を集めることに成功した。そして今年、角田さんはこの活動をもう一度行い、福島県南相馬市の生徒たちをサッカーW杯ロシア大会へ招待することを決めた。
W杯ロシア大会への招待が決まったのは、青田琉園(14)さん、本間一乃巴(13)さん、杉本佑斗(13)さんの3人。震災が発生した2011年、彼らは7歳くらいだったが、3月11日のことをよく覚えているという。故郷を離れ、避難所生活を送り、その後、仮住まいを転々とした経験を語るのは、子供たちにとってたやすいことではない。青田さんは津波で同級生を失った。その子の葬儀の時に、震災後はじめて友人たちと再会したという。
角田さんは生徒たちと会う前に、ちょんまげのカツラを被った。これは印象に残るサッカーファンの衣装というだけでなく、サムライの強い精神力のシンボルでもあるという。角田さんはロシア行きについて「世界と東北を結ぶアンバサダー(親善大使)として感謝を伝えることがある。ロシアも韓国同様に隣国で、日本が東北で大変なときにいろいろな支援をしてくれた。これがミッション1だ」と語る。
生徒たちと面会するため在新潟ロシア総領事館アタッシェ(専門職員)のアントン・チギリョフ氏が到着、サッカーW杯ロシア大会のマスコット「ザビワカ」のぬいぐるみを生徒たちに贈った。チギリョフ氏はまた、ロシアでの生活や、サッカーW杯ロシア大会の安全性について語り、質問にも答えた。チギリョフ氏は、ロシアの学生たちとの交流会開催やモスクワでの宿泊施設探しについて、在新潟ロシア総領事館を代表してプロジェクトを支援していくことを保証した。
子供たちは、困難な時に助けてくれたロシア人や他の外国人のことをよく覚えている。青田さんは当時を振り返り「矢沢小学校で仮設校舎で経験していた時とか、すごく支援物資、毎日送られてくる水だったり人形だとか、小さな絵本とか、そういうものが楽しみで、元気をもらっていたので、そういう感謝の気持ちを、色々な国の人が来るので、少しでも伝えられたらなと思います」と語る。また本間さんは「マーチングをやっていて、楽器が足りなくて海外からも支援を送ってもらったんですけれど、海外からの支援があったから今のマーチングが続けられたので、海外の人たちに感謝の気持ちを伝えていきたいと思いました」と話している。
2020年東京五輪では、一部の試合が福島県で開催される。そのため子供たちのミッションの1つは、福島県の状況に関する悲観的な噂を払拭し、ロシアのボランティアからおもてなしを学ぶことだ。角田さんは「そして私たち被災者側にも裏テーマというべきものがある。それを正直に言うと、主催者の狙いは、風化させないということ」と語る。
男子生徒たちにとってW杯観戦は初の海外旅行となる。なお彼らにロシアについて知っていることを尋ねたところ、きまり悪そうに下を向き、明確な答えは返ってこなかった。本間さんは自信なさそうに「きれいな印象がある」と話した。
青田さんはロシアへ出発するまでに、現地での交流のためにロシア語の単語をいくつか勉強すると約束した。青田さんにとってW杯へ行くことは大きなスポーツイベントではなく、異なる文化や国籍を持つ人々との出会いの機会だという。青田さんは「海外の文化とかが好きなので、短い間だけでも海外に住んでみたいという気持ちはあります。色々なところに旅行にも行きたいです」と夢を語る。
角田さんは「金銭に余裕があれば、南相馬市の生徒全員を送りたい」と話す。だが今回の招待が最後になる可能性があるという。渡航費用を集めるのがとても難しかったからだ。
生徒たちは6月14日から21日にかけてロシアを旅する。彼らはサンクトペテルブルクの白夜やモスクワの名所を見たり、サランスクでは日本代表とコロンビア代表の試合を観戦する。そして重要なのは、生徒たちが震災後も生活が続いていることを全世界に自ら証明することだ。