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写真展の主催は「МФК PHOTOS」(モスクワ写真部)だ。МФК PHOTOSは日本とロシアで活躍するカメラマン、中村正樹さんが立ち上げた写真家集団で、設立7年にして約200名が在籍している。中村さんのもとには、ロシアの風景にインスピレーションを受けた、多くの仲間達が集まっている。
都内の百貨店の写真館でカメラマンとして働いている奥竹翠さんもその一人だ。奥竹さんは家族の仕事の都合で、2011年から6年間モスクワで暮らした。美術やデザインへの関心から、写真の腕を上げようとМФК PHOTOSに入部。ロシアのおとぎ話に出てくるような、素朴で温かみのある風景に魅せられるという奥竹さんは、大都会モスクワで失われたものを求めて、地方都市やダーチャ(郊外の別荘)をたびたび訪れた。その反面、「ソ連のデザインの、そぎ落とされた感性も好き」と話す奥竹さん。今も自宅の食器のほとんどは、ソ連時代のアンティークだという。
МФК PHOTOSの副代表、YAJさん(矢島徹至さん)は、仕事の都合で何度もロシアに滞在。マラソンが趣味で、バイカル湖マラソンに出場した際、公式カメラマンとして撮影していた中村さんの写真に心を動かされ、本格的に写真を始めた。
YAJさんが注目しているのは、人物と時間の使い方だ。ロシア人はとにかく散歩が大好きで、これといった行き先がないまま長い距離を歩くことも厭わない。日常の街歩きを愉しむロシア人の姿は、常に何かに追われている日本人の目には驚きだが、YAJさんはむしろ、そこにロシアの豊かさを見出すという。YAJさんは「スタイルの良い彼らの被写体としての魅力を、歩くようにリズミカルに表現しようと思います」と話す。
ソ連・ロシアのオールドレンズは、個性的な写真が撮れるとあって、近年日本でも関心が高まっている。ミラーレスカメラの普及により、従来の一眼レフと違って簡単に装着できるようになったことも人気の秘密だ。YAJさんは、モスクワの観光地「ヴェルニサーシュ」でオールドレンズを販売するエフゲニーさんと懇意になった。それがきっかけでエフゲニーさんの店には、カメラを愛する日本人が絶えず訪れるようになった。ヴェルニサーシュは安価で個性的な土産物が買える場所として有名だが、レンズを始め、アンティーク品も揃えることができる穴場である。
展示レンズは、ぐるぐるボケと呼ばれる特徴ある描写で「ボケモンスター」の異名を誇るレンズ「Helios 40」シリーズや、星型絞り羽根マクロレンズ「VOLNA9」、東ドイツのメーカー「カール・ツァイス」の完全コピー「Yupiter8」など、多岐にわたる。
YAJさんは「ロシアはオールドレンズの宝庫で、西側の技術を模倣したものから、質実剛健なロシア人そのもののような武骨な外見のレンズまで、魅力は尽きません。現地滞在中に私たちが買い求めた、様々な物語を秘めたレンズの数々を見てもらえれば」と話している。
「レンズの奥のロシア」写真展概要
場所:Gallery my-an TOKYO 東京都港区赤坂2丁目17-62 ヒルトップ赤坂1階
会期:2018年9月15日(土)~ 2018年9月24日(月)
時間:午前11時から午後9時まで(最終日は午後8時まで)
入場料:無料