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日本人で最大のグループは、モスクワ在住の日本人が中心になっているマラソン同好会「ベガリュビ」だ。メンバーは約40人で、エリートランナーからマラソン初心者まで幅広く、女性の割合も年々増えている。
初心者が多いベガリュビの目標は、モスクワマラソンを完走することだ。毎週水曜日の夜、トレーニングプログラムを組む担当者が中心になり、市内でランニングを行なっている。参加者は「仕事が忙しくても、練習があると思うとメリハリをつけて頑張れる」と話す。
代表の若松隼人さん自身、ベガリュビに入ったのは、職場の人に誘われたことがきっかけだった。
若松さん「マラソンは他のスポーツと違ってある意味『走るだけ』なので、誰でも始められます。ベガリュビは、実力差があっても、みんなで楽しみ、モスクワ生活の良い思い出を作ろうというコンセプトでやっています。一人でランニングを続けるのはハードルが高いですが、みんなで走れば頑張れます。中にはエリートランナーの方もいますが、全く嫌な顔をせず、ビギナーのレベルにあわせて一緒に走ってくれています。だからメンバーが定着するのだと思います」
練習中でも、初心者で走りが遅いからといって置いていかれることはない。この「みんなで走る」というパワーが精神的な支えとなり、モチベーションになるのだ。結果、後半に坂が出てくるという決して楽なコースではないにもかかわらず、モスクワマラソンではほぼ全員が完走するという快挙を成し遂げている。その絆は帰国してからも続き、ロシアでの駐在を終えても、モスクワマラソンに出るためだけに、モスクワに戻ってくる人もいる。
ロシアでマラソンは数年前までマイナースポーツだったが、ここ最近でランナーの数が急増している。ベガリュビのメンバーは「マラソンはロシア人の我慢強さや体力が生きる競技。朝に走っていると、他のランナーとすれ違うことも多い」と話す。
今大会では、降ったりやんだりする雨と、巨大な水たまりがランナーを苦しめた。ベガリュビのメンバーで、二年連続出場・完走した石嶋かおりさんは言う。
石嶋さん「去年より少しでもタイムを良くしたいと思って走りました。スタートから雨で寒かったですが、完走できて良かったです。水たまりを踏むと他の方に迷惑をかけてしまうので、よけながら走るのが大変で、まるで障害物レースのようでした。日本の国旗をもって沿道で応援してくれたり、知らないロシア人が私のゼッケンの名前を見て、沿道から『カオリ!カオリ!』と声援を送ってくれ、力をもらえました。嬉しかったです」
モスクワマラソンは年々国際化が進み、今年は92か国から2320人の外国人の参加があった。外国人参加者で一番多かったのはタイ人。去年まで数えるほどしかいなかったが、今年は456人にも達した。昨年出場したタイの著名ブロガーが体験記を書いたことで、タイ人が殺到したのだという。ほかにも、中国や韓国などアジア人の活躍が目立った。
筆者はこの日寒さに震えながら、叫ぶロシア人に混じって、フィニッシュ前でランナーの姿を見守った。テレビ電話で会話しながら余裕でフィニッシュを決めるランナーがいたかと思えば、小さな子ども3人と手をつないで一緒に走る父親、フィニッシュ数メートル手前でひざを痛めた人を周りのランナーが支えて一緒に歩く光景など、数々の感動的なシーンに胸が熱くなった。