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ウクライナ海軍の発表によれば、ウクライナの小型装甲砲艦2隻と急襲用タグボート1隻の計3隻は、オデッサ港からウクライナのマリウポリまで、計画されていた通りの航行を行っており、航行についてはロシア側にあらかじめ通知がなされていた。11月25日夜、ウクライナの船が通航しているさなかにロシアの軍艦がこれに対して発砲した。ロシア連邦保安庁は、この結果、3人が負傷したことを明らかにしている。拿捕されたウクライナの3隻はケルチ港へと牽引された。11月26日、ケルチ海峡は民間の船舶の航行のためにロシアによって閉鎖が解かれている。
11月25日、アゾフ海と黒海をつなぐケルチ海峡がロシアによって遮断された。ロシア連邦保安はこの措置がとられた理由について、同日朝、ウクライナ海軍の3隻の艦船が黒海における「一時的に閉鎖されたロシアの水域に非合法的な侵入を行った」ためと説明している。ケルチ海峡での事件を受け、11月25日深夜、ウクライナ国家安全保障・国防会議が招集され、投票の結果、戒厳令の発令が決められた。翌26日、日中、同会議の決定をポロシェンコ大統領が承認。これによってウクライナのいくつかの地域に限り、30日間にわたる戒厳令が敷かれた。
アゾフ海の紛争はどうして始まったか
状況が緊迫化したのは2018年春。ウクライナの国境警備隊がロシアの漁船を拿捕し、ベルディヤンスクまで曳航した。船員らはパスポートを取り上げられ、下船を禁じられた。船長のウラジーミル・ゴルベンコ氏は「一時的に占領されたウクライナ領域」に侵入したとして起訴された。この事件後、クリミア沿岸で今度はロシアの国境警備隊がウクライナ船籍の漁船を拿捕。双方は7人対7人の拘束者の交換を行ったものの、ロシアのゴルベンコ船長だけは今もなおウクライナに留め置かれている。
ケルチ海峡及びアゾフ海の地位は、1982年に定められた「海洋法に関する国際連合条約」と2003年にロシアとウクライナの間で締結された「アゾフ海およびケルチ海峡の利用における協力についての二国間合意」の2つによって規定されている。
国連条約はいかなる国の船籍の船にも領海の無害通航権を保証している。
二国間合意の第1条項にはアゾフ海およびケルチ海峡は歴史的にロシア連邦およびウクライナの内海であったことが指摘されており、第2条項にはロシア連邦またはウクライナの国旗を掲げる貿易船、軍艦また非商業的目的で用いられる国家の船は、アゾフ海およびケルチ海峡の自由な通航権を行使できると書かれている。
2007年、ロシアとウクライナはケルチ海峡の通航権についての合意を締結した。この文書によれば、ケルチ海峡を通航するいかなる船もケルチ海峡の通行の意図をあらかじめ通知せねばならないと明記されている。
2014年、クリミア半島はロシアの構成体に編入され、ロシアがケルチ海峡の両岸のコントロールを開始した。ロシア外務省は、ケルチ海峡は過去も現在も国際的な水域であったことはなく、外国船舶に対するトランジットあるいは無害通航権の要求は行使されないとする声明を表していた。
ウクライナ船舶の拿捕は合法的か
ロシア連邦保安庁国境警備課クリミア担当部署は、ウクライナの船舶は海峡通過の通知を行っておらず、通過予定の表にも含まれていなかったと主張している。ロシア連邦保安庁はさらに、船舶は停止要請を無視し、危険なかじ取りを行ったために国境警備隊は発砲を迫られたと説明している。
ロシアの行為に対するウクライナ側の反応
ウクライナ海軍は通航についてはあらかじめロシア側に通知していたと語っている。26日、ウクライナ海軍のイーゴリ・ヴォロンチェンコ司令官は、ウクライナの船舶はケルチ海峡を通過する際にロシア側に煽動は行わなかったと指摘した。ウクライナ政権は、ロシアはキエフ当局に圧力を講じるためにケルチ海峡を管制しているという。7月、ウクライナ国家国境庁の代表のオレグ・スロボデャン大佐は、ロシアはアゾフ海を封鎖し、これがウクライナの港湾の作業に否定的影響を及ぼしているとして、これを非難する声明を表している。
ウクライナの非難にロシアはどう答えているか
先日、ロシア外務省のグリゴリー・カラシン次官はコメルサント紙からの取材に対し、ロシアの国境警備隊の行為は差別的性格を帯びたものではないと答えていた。カラシン外務次官は、抜き打ち検査はいかなる船舶に対しても行われてきており、ロシアの船もその対象となっているとして、「私の示す期間のなかで検査を受けた船のほぼ半数(48%)がロシアの港に向かっていたものか、またはロシアの港から出帆した船である。アゾフ海でウクライナ国旗を掲げて拿捕されたのは、漁業規則に違反したわずか1隻だった」と指摘している。カラシン外務次官は、ウクライナ船舶の検査が行われる集中度については、急進主義者のロシアへの脅威のレベルに応じたものと述べた。
ウクライナのポロシェンコ大統領はなぜ戒厳令を発令したか
ウクライナでは、東部で凄惨極まりない戦闘が展開されていた時でさえ、戒厳令が発令されたことはなかった。ウクライナ国家安全保障・国防会議のアレクサンドル・トゥチノフ議長は、戒厳令が発令されている状況では大統領選挙は延期される可能性があると述べたが、一方でポロシェンコ大統領は選挙は憲法に即し、2019年3月31日に実施されると約束している。
戒厳令はさらに大統領に対し、軍事、民事両面でほぼ制限のない全権を与える。大規模集会、行動が禁じられる他、大統領が政党、社会組織の活動を禁じる際も簡素な手続きで済ませることができ、マスコミのコントロールも可能になる。
状況に対する国連、EU,米国の反応
EU、米国はウクライナのロシアに対するクレームは根拠のあるものとみなしている。ロシアの行為を米国務省はウクライナ情勢を不安定化させる試みと呼んで非難した。EUもロシアの行為を糾弾している。10月、欧州議会はアゾフ海の紛争が激化した場合は対ロシア制裁を厳格化する決議を採択した。