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経済学博士でモスクワ国立大学グローバル・プロセス学部の講師を務めるヤナ・ミシェンコ氏によると、日本をますます不安にさせているのは、「ロンドンのEU離脱後に関税同盟を設置することについて、ロンドンとEUがなかなか合意できないという事実である。日本のメーカーは、EU諸国とイギリスの間に輸入関税が導入されることを望んでいない。なぜなら、これは日本企業の収益に悪影響を及ぼすからだ。Brexitによって日本企業が収益を失うことになれば、英国への日本の投資の縮小につながる。」
イギリスにある日本のメーカーにとって、地理的にも近く、規模も大きい欧州市場が極めて重要なのは当然だ。ヤナ・ミシェンコ氏によると、今後の状況の展開に影響を及ぼすファクターがさらに2つあるという。「ロンドンは、イギリスがTPPに加盟する可能性について、半公式な交渉を行っている。もしBrexit後にこのイニシアチブが実現すれば、これはイギリスと日本の経済関係の発展を大きく後押しすることになるだろう。他方で、日本とEUはすでに自由貿易協定を締結している。協定の目的は、両国の貿易関税の99%を段階的に無くしていくことである。これもまた、日本とEUの経済協力の発展を促すものである。これを踏まえると、日本企業が英国からEU諸国に移転するという発言は、きちんとした基盤を持った、いかにもありそうなことのように響く。」
しかし、政治学博士でサンクトペテルブルグ国立大学国際関係学部のグリゴーリー・ヤルィギン准教授は、日本のビジネスが完全にイギリスから撤退することは、どんな状況でも考えにくいと言う:「イギリスのEUからの完全な離脱がまだ起こっていない今、日本のこうした措置は戦術的で宣言的なものである。Brexit後でさえも、長期的に見れば、ロンドンの世界の金融センターとしての地位は変わらない。日本企業はただ、この問題についてイギリスからより明快な回答を得て、何らかの権益を引き出したいと考えているのだと思う。それは、まさに国替えという抜本的な措置を講じずに、自社の本社をロンドンに維持するためのものである。本社の所在地を変えるというのは、かなりの労力と時間を要するプロセスであり、相当な費用もかかる。それが今度は企業の株価にも影響を及ぼす。必要に応じて、欧州にもうひとつの金融経済センターを開設する方がよっぽど簡単だ。」
いずれにせよ、今のところは、回答よりも疑問が多いのが現状だと指摘するのは、雑誌『エクスペルト(エキスパート)』のシニア経済アナリストのアンナ・コロリョワである:「イギリスは、日本からの投資流入額と、同市場をまさに狙った日本企業の進出数でヨーロッパ随一の国である。日本企業が常に機動的だとは言っても、工場がそこから撤退するのは困難だ。さらに、イギリスには、イギリスに進出する日本企業にサービスを提供する部門も多く所在する。それは銀行であり、保険会社であり、物流会社である。ロンドンにはBrexit後に特に評判に傷がつくということもなく、世界の一連の取引所も依然として残り続ける。そのため、日本企業がイギリスから撤退する意味はまったくない。」
もしかすると、イギリスからの撤退の意向を口にすることで、東京はイギリスとEUの両者に取り入り、どちらがより興味深い提案をするのかを見守っているのかもしれない。