必要な措置か、それとも野蛮か? なぜ日本は性別変更に去勢手術を求めるのか

© 写真 : fuminosugiyama杉山文野さん
杉山文野さん - Sputnik 日本
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今年に入ってから世界のメディアは、性別変更の際に性別適合手術(去勢手術)をすることを求める日本の法律に警鐘を鳴らし続けている。今年の1月、世間の注目を集めたのは、臼井崇来人(たかきーと)さんの一件である。臼井さんは戸籍上は女性だが、「生殖能力がないことを性別変更の要件する性同一性障害特例法の規定は、憲法13条に反している」として、最高裁に特別抗告を申し立てていたのだが、棄却された。

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しかしこの件は、その後も新展開を迎えている。非営利の国際人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が3月20日、日本の性別変更に関する法律を早急に見直すべきだと、日本政府に対して要求したのである。スプートニクは、なぜ日本は生殖能力をなくす手術を要求するのか、そしてそれを拒否する人々はどうやって生活しているのかに迫った。

「マイノリティの変な人は我慢してくださいよね」

性的マイノリティの置かれている状況に詳しい弁護士の柳原由以さんは「私は手術が必要だとは思いません」と話す。臼井さんの裁判の判決の中では「性転換して女性が男性となり、女性と結婚したにもかかわらず、(女性としての)生殖機能を抜いていなければ、男性でありながら子どもをつくる事態が生じるのではないか、もしくはそういった混乱をさけるため」と書いてある。

別の言葉で言えば、法律上、男性は完全に男性であり、女性は女性であるという前提になっているので、戸籍上の男性が子どもを出産することは想定していない。それは生物学的な規範の逸脱であり、社会に混乱をもたらしてしまう。それを避けるための法律だというわけだ。

柳原さんは、「これは日本の風潮として、多様なものを柔軟に受け入れるという発想で作られたわけではなくて、同性婚を認めないとか、家族の色々なありかたを認めないという、根本的なところに通じているのだと思います」と言う。

最高裁は性別適合手術を必要とする法律の規定は合憲だとし、臼井さんの訴えを退けたが、柳原さんは「これはすごくおかしなこと」だと話す。

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柳原さん「最高裁が言っているのは要するに『社会がこうあるべき』で『社会に混乱をきたすから、ちょっとマイノリティの変な人は我慢してくださいよね』という論理になってしまっています。でも人間はそういうものではなくて、社会的には受け入れにくいもの、日本の空気と言うか、常識や社会通念上で『この人おかしいんじゃない』と言われても、その個人を大事にするというのが人権です。この最高裁の理論は『社会全体のためには個人は犠牲になりなさい』というのに等しいので、すごく残念だなと思います。」

公式な数字によれば性同一性障害特例法の施行から14年が経ち、7000人以上の人々が性別適合手術を受け、性別を変更した。しかし、トランスジェンダーの人のうち多くは、手術を受けることを望んでいない。

「僕の戸籍が男でも女でも、あなたにはどうでもよくないですか?」 

杉山文野さんは26歳のときまで、女性として生活しており、しょっちゅう「ボーイッシュで元気な子ね」と言われていた。杉山さんは子どものときからスカートを好まず、たくさんスポーツをしていた。杉山さんは、自分が持って生まれた身体に違和感を感じていた。10年ほど前、杉山さんは男性の外見に近づき始めた。ホルモン療法の講座に通い、胸のふくらみを除去した。濃いひげを生やし、低い声で話す杉山さんの姿を見れば、その中に女性を感じ取ることは難しい。しかし、公式的には杉山さんはいまだ女性のままである。

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杉山さんはまだ、公式に男性になるために性別適合手術を行なうという決断をしていない。

杉山さん「生殖機能を取るというのは、かなり体に負担がかかるじゃないですか。ただでさえ手術は身体に負担ですし、しかも生殖機能というのはどれくらい負担になるかわかりません。法律上、手術しろと言っているのに、保険適用もできません。お金の面でも、体にも心にも大きな負担をかけ、リスクを冒してまで手術をするというのは僕は選択肢としてはないかな」

しかし、戸籍が女性であることで、杉山さんは、多くの権利と自由が奪われていると感じている。この8年間、杉山さんはある女性とパートナー関係にあるが、日本は同性婚を認めていないため、2人は公式に結婚することはできない。また、杉山さんが、パートナーとの子どもの完全な親にはなれないという懸念もある。

杉山さん「彼女がゲイの友人から精子提供を受けて、体外受精で子どもが生まれまして、一緒に暮らしているんですけど、『杉山家に間借りしているシングルマザーとその子ども』という形でしかないので、彼女や子どもに何かあったときに、僕が守ってあげられる(公的な)関係者ではないというのは不安になります。」

杉山さんは、自身の性別変更によってなぜ社会が不安になるのか理解できないと話す。

杉山さん「僕の戸籍が男なのか、女なのかということで、誰かに迷惑をかけるのなら話は別なんですけど、別に僕の戸籍が男でも女でもあなたにはどうでもよくないですか? 関係ないでしょう。誰かの人生にすごく迷惑をかける話であれば考えますけれどね。」

現在、杉山さんの見た目は完全に男性なので、戸籍の情報を見せない限り、杉山さんが男性なのか女性なのかは、誰も問題にはしないという。

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今年も台北プライドに参戦! #台北 #LGBT #Pride #台灣同志遊行 #beams さん #ありがとうございました

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「一部のトランスジェンダーにとっては、戸籍の性別を変更するだけで心が楽になる」

ロシアの著名な性科学者レフ・シェグロフ氏は、ホルモン療法を始めた段階で、公的書類の性別変更をすべきだと考えている。なぜならそのプロセスが進行すればするほど、外見は現行の書類上の性別から遠ざかっていくからだ。「もし、ある人が生まれもった性別に拒否反応を示しているならば、3年間、性科学者と心理学者によって経過を観察し、外科手術をするかどうかという問題を提起することになります。手術後すぐに新しい身分証明書が交付されるとともに、内分泌科の専門医の経過観察のもとに、何年にもわたってホルモン療法が続けられます。」

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しかし2014年、WHO(世界保健機関)は、人を機能障害にしてしまうおそれのある手術に反対すると表明し、外科的な干渉なしで性別変更を許可するよう、各国政府に呼びかけた。2017年、欧州評議会は、ジェンダーの問題を抱えている人に対し、もし自分の行動に責任がもてるのなら、(手術を待たずに)性別を変更してよいと決議した。性科学者でトランスジェンダーの問題に詳しいドミトリー・イサエフ氏によると、ロシアでも、2018年2月から、性別変更に関して外科手術を求めなくなった。

日本ではまだ性同一性障害特例法の見直しという話にはなっていないが、この問題点に対する動きは見られる。臼井さんの裁判においては、三浦守裁判長と鬼丸かおる裁判官により「性同一性障害者の性別に関する苦痛は、性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題である。その意味で、(中略)性同一性障害者を取り巻く様々な問題について、更に広く理解が深まるとともに、一人ひとりの人格と個性の尊重という観点から各所において適切な対応がされることを望むものである」というコメントが出された。コメントによれば、法律の変更は、社会の変化に対して行なわなければならないものだ、ということになっている。日本でも、社会の変化はもう起こっていると言えるだろう。

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