展示品の大部分は、デザイングループ「SAMO」の創立者、アンドレイ・スカトコフさんとマリア・オルロワさん夫妻が収集した個人コレクションから貸し出されたものだ。13年前、アンドレイさんはマリアさんの誕生日に、インターネットで見つけた黒留袖をプレゼントした。そのときは、二人とも着物の知識は全くなく、元通りにたたむことさえできなかった。
しかし着物の美しさに魅せられた二人は、その後ハイペースで収集を続けた。着物を一枚手に入れるたびに、その着物に関するあらゆる研究をし、時代背景などを学んだ。そうしていくうちに、日本の劇場文化の変遷について体系的な知識を得ることができたという。日本人を含むゲストたちは、コレクションの解説をするスカトコフさんの日本文化への造詣の深さに感銘を受けていた。
コレクションの多くは、インターネットやオークションを通じて購入したものだ。実物を目で見ずに、高額の着物を取引するのは怖くないか?という問いに対しスカトコフさんは、「日本人は布製品を売るとき、何か問題があったりシミがあったりすると、とても細かいところまで詳細に記述しています。それに加え、13年間の経験で、目利きの能力が培われました。今では写真を見ただけで、実際の着物との相違など、かなり正確に予測できるようになりました。買ってみて期待はずれ、ということは滅多にありません」と話す。
昨年、9月のモスクワ凱旋公演で歌舞伎を見に行った二人だが、今年5月の日本旅行では、初めて歌舞伎座で念願の「京鹿子娘道成寺」を鑑賞することができた。二人は、観客席から役者にむかって掛け声を発する文化(大向う)が残っていることに感動したという。
展覧会の演出・構成にあたって白羽の矢が立ったのは、プロジェクト「Kimonozuki」(着物好き)の創始者マリア・エメリヤノワさんだ。エメリヤノワさんもまた、着物文化をロシアに広める活動をしている。着物を広げた状態で展示するだけでなく、マネキンに着付けし、着用したイメージがわきやすいようにした。展示品の中には、源義経と弁慶の出会いをモチーフにした着物もあり、ゲストたちはエメリヤノワさんの歴史解説に熱心に聴き入っていた。
ロシアにはロシア版メルカリとも言うべき「アビータ」という不用品販売サイトがあるが、エメリヤノワさんによると、ここで思いがけない貴重品を購入できることがあるという。誰かにもらって何十年も家に保管していたものを、着物の価値がよくわからない人が二束三文で出品してしまうのだ。エメリヤノワさんは今まで沖縄の着物や、西洋人のために仕立てた丈の長い着物などを格安で買うことができたという。着物ファンは着実に増えており、エメリヤノワさんのもとには着物レンタルの申し込みや着付けの依頼が絶えない。
小野田社長「昨年のサッカーW杯ロシア大会といった行事や、ロシアにおける日本年の活動を通して、ロシアの方たちが日本文化、日本人に対して非常に興味を持ってくれているということがよくわかり、以前から行っている我々の文化支援事業も、意味のあることだと実感できました。日露の経済的な結びつきを発展させていく鍵となるのは、互いの文化や伝統をよく知ることだと思っています。このようなイベントに協力することで、ビジネスの結びつきも強化することができれば、と願っています。」
展覧会は9月29日まで。日本人にも楽しめる内容になっているので、芸術の秋のスタートに、ぜひ足を運んでみてほしい。