陸自中央音楽隊

ロシアの軍楽祭で見せた華やかなパフォーマンス
史上初の日露合同コンサートに感動の声
8月23日から9月1日まで行われたロシアの国際軍楽音楽祭「スパスカヤ・タワー2019」に、防衛省陸上自衛隊中央音楽隊が初参加した。このフェスティバルは今年で12回目。開催中は連日午後8時から赤の広場で本公演が行なわれ、各国精鋭の軍楽隊によるパフォーマンスが披露された。本公演以外にも毎日、参加国によるパレード、公園や鉄道駅でのミニライブなどの特別イベントが催され、モスクワ市民にとって世界の音楽を身近に感じられる絶好の機会となった。筆者はフェスティバル初日である8月23日の本公演と、28日に行われた陸自中央音楽隊およびロシア国家親衛軍庁音楽隊による日露合同コンサートを鑑賞する機会に恵まれたので、その感動の一端を読者の皆さんにお伝えしたい。
スパスカヤ・タワー本公演、赤の広場の熱い夜
午後8時でもまだまだ明るいモスクワ。赤の広場の四方に設営された観客席がぎっしり埋まる中、まさに正統派軍楽隊といった様相のイタリア、楽器もコスチュームもスタイリッシュなノルウェー、エキゾチックなアゼルバイジャンやカザフスタンなど、お国柄の出たパフォーマンスが次々と続く。軍楽隊のみの参加国もあれば、ダンサーや歌手を伴っている国もあり、個性豊かだ。トルコのテノール歌手の美しい高音には、特別に熱い拍手が送られた。前半の出演国で特筆すべきは、初参加の北朝鮮だろう。文字通り一糸乱れぬ行進、タイトなミニスカートでの目にもとまらぬ速さの剣舞、何枚もの国旗を使ったパフォーマンスで、独特の世界観を演出していた。
陸自中央音楽隊は、カラフルな提灯を持って入場した。繊細な笛の響きに、日本らしい力強さを感じさせる太鼓のパフォーマンス。和楽器を多用したオリジナル曲の演奏がフィナーレを迎えると、轟音とともに花火が上がった。一瞬の静寂のあとには照明が落ち、ブルーライトの光の中、遠目からでも美しい赤い着物に身をまとった女性が登場。陸自中央音楽隊の歌姫・松永美智子3等陸曹だ。松永3等陸曹がロシアで人気のロマンス「長い道を」をロシア語で独唱すると、会場からは手拍子が起きた。
後半の出演国の中でエジプトは、その奇抜な衣装と出演人数の多さで会場を圧倒した。実は彼らのファラオ・ファッションは毎年恒例で、「スパスカヤ・タワー」の風物詩となっている。この頃にはすっかり日も暮れており、赤の広場で最も美しい教会、聖ワシリー大聖堂には、プロジェクションマッピングでエジプトをイメージした象形文字が映し出された。
史上初の日露合同コンサート
ロシアの軍楽隊との合同コンサートは、冒頭で述べたように、自衛隊の音楽隊設立以来、初の試みだ。コンサートは赤の広場や無名戦士の墓といった、モスクワの観光スポットにほど近いオープンスペースで行われた。スプートニク取材班が到着したとき、音楽隊隊員の皆さんたちは連日の公演の疲れも見せず、リラックスした様子でリハーサルにのぞんでいた。この日はモスクワには珍しく快晴。雲ひとつない青空の下、開始前から場所を取る人たちでにぎわっていた。
まずは陸自中央音楽隊の単独コンサートだ。指揮棒を手にした音楽隊隊長の樋口孝博1等陸佐がにこやかに手をふると、歓声が上がり、演奏が始まった。定番のクラシックからスタートし、続いてソーラン節など日本の民謡、太鼓のパフォーマンス、扇子を持ったダンスが披露された。「カチューシャ」を始めとしたロシア民謡メドレーが始まると、誰からともなく観客が口ずさみ、やがては大合唱になった。音楽と歌声にひかれて更に人が増え、東南アジアや中国からの観光客も輪に加わった。日の丸を持って応援しているロシア人の姿もあった。最後は松永3等陸曹の歌で締めくくった。

観客の中には日本人の姿も多く見られた。ある日本人女性のグループからは、「昼間の部は明るくて、お囃子もあって、楽しかったです」「ロシアの人が一緒に歌ったりして喜んでくれているのを見て、感動しました」「自衛隊の方が、よくモスクワまで来てくれたな、と思って、嬉しかったです。フレンドリーな方が多くてびっくりしました」との声が出た。また、彼女たちが日本人だとわかると、場所取りをしていたロシア人が「どうぞ、前で見て!」と、前に通してくれたという。


ホームページで陸自中央音楽隊の出演情報をチェックし、最前列で鑑賞したロシア人女性は、「息子が日本のアニメの吹き替えの仕事をしているので、私にとって日本という国はすごく身近になりました。ロシアの曲をたくさん演奏してくれて嬉しかった。どの曲も素晴らしかったです」と満足げだった。後半はロシア国家親衛軍庁音楽隊が合流し、日本人とロシア人が一人ずつ交互に整列して、合同で数曲を演奏した。最後にプレゼント交換が行なわれ、日露の友好が確認された。
樋口隊長「ロシア訪問、20年前なら考えられなかった」
今回の陸自中央音楽隊による「スパスカヤ・タワー」への参加は、今年5月30日に行われた日露「2+2」において、日露両国の信頼醸成の一環として合意されたものだ。これまでは日本の民間団体が参加していたが、自衛隊の音楽隊としてフェスティバルに参加するのは初めてだ。
樋口隊長は、フェスティバル開始前の取材で記者団に、芸術大国であるロシアでの演奏は「モチベーションが非常に上がります」と話し、「チャイコフスキーやストラヴィンスキーなど偉大な音楽家を輩出したロシアは、西洋音楽を学ぶものにとっては、憧れの地の一つです。誇りをもって演奏したい」と意気込みを語っていた。スプートニクは、日露合同コンサートを終えた樋口隊長に、フェスティバルの感想を聞いた。
今まで米国やヨーロッパなど色々な国で演奏してきましたが、ロシアでの演奏は初めてです。赤の広場で自衛隊が演奏するというのは、20年前には考えられないことでしたから、とても感銘を受けています。そして世界中の軍楽隊と交流できたことは、自衛隊にとっても、日本にとっても、とてもプラスだと思います。ロシアには何百という軍楽隊があるそうなので、色々な軍楽隊ともっと合同演奏や交流ができればと思います。
樋口隊長
樋口隊長は、将来、ロシア最高峰の劇場であるボリショイ劇場のステージで演奏できたら嬉しい、という夢を打ち明けてくれた。東西冷戦の時代から世界は大きく変化し、時代は確実に動いている、と感じさせてくれた陸自中央音楽隊の初訪問だった。

スプートニク日本
筆者: 徳山 あすか

写真: セルゲイ・マモントフ、ラミリ・シトジコフ、ブラジミル・アスタプコビチ、クリスチナ・サビツカヤ
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