報告書作成に関わった研究者らは、中国のように高度な技術力を持った相手と米軍が戦争したと想定した際、米軍がいかに脆弱であるかを示している。その例として、海軍と海兵隊が持つ戦闘機のうち、53%が出撃できない状況にあると記されている。また、研究によると、軍事作戦上の兵力として見込まれている人員は米軍基地全体のわずか3分の1に過ぎない。
こうしたタイプのミサイルで中国は韓国や日本(沖縄の基地は短距離弾道ミサイルの射程圏内)、フィリピンの米軍基地を破壊できる。報告書作成に関わった研究者らは、ミサイルの奇襲攻撃で中国はこの地域における米軍を撃破できると結論付けている。この結論はすでに以前から提示されているものだ。同様の結論を「新アメリカ安全保障センター」(拠点は米国)も2017年7月に提示している。しかし、オーストラリアの研究者らはさらに踏み込んだ結論を提示した。まず、オーストラリアは独自に長距離ミサイル防衛システムを構築する。次に、有事の際に備えて弾薬、および燃料の備蓄を増やす。そして最後に、安全保障分野におけるパートナーシップを見直す必要があるとした。
この研究者らが集団防衛における日本の役割について関心を割いている点は重要だ。航空自衛隊と海上自衛隊の戦力はオーストラリア軍のおよそ3倍に達する。対潜戦など、一連の戦略において日本の役割が期待されている。研究者らは事実上、日本を地域レベルの重要な同盟国としてみなすことを提案している。仮に米軍のプレゼンスが今後も低下する場合、オーストラリアにとって頼みの綱はもはや日本だけだ。
軍事的状況は大幅に変化しており、米軍はもはやこの地域における優位性を失っていることは受け入れるしかない。しかし、中国人民解放軍が果たして奇襲で米軍を撃破できるという仮説が本当に正しいかは疑ってみる必要がある。核を搭載しない弾道ミサイルと巡航ミサイルの戦力は極めて限定的だからだ。
核を搭載していないミサイル(フガス砲弾や榴弾)で撃破するには、空軍基地と海軍基地はあまりに標的として大きい。重量500キロの巡航ミサイルや弾道ミサイルで破壊できる目標物は80メートル程度に限られる。こうしたミサイルで破壊できるものといえば、機体の格納庫や武器庫、レーダーなどだ。戦闘機を基地に分散させて配備するだけで、攻撃の標的となるリスクは大幅に減る。さらには、こうしたミサイルで滑走路を使用不可の状態まで破壊するのは難しい。海軍基地に関していえば、空母や石油貯蔵庫、武器庫などに命中させることができれば重大な被害を与えることは可能だ。しかし、波止場を破壊して艦隊の停泊を不可能にするのは難しい。したがって、中国人民解放軍が「シャイラト空軍基地攻撃」以上の結果を達成できるかは大いに疑問だ。一定の被害を与えることはできても、基地の壊滅とまではいかない。
作戦計画上、ミサイルによる空軍基地の攻撃は軍事行動の一部にすぎず、戦術上の優位を限定的な範囲で確保することしか目的としていない。ミサイル攻撃部隊の成功は、他の部隊の行動によって左右される。ミサイルだけで戦争に勝てるものではない。
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