レウトフはモスクワの東にある小さな町で、公式データによると人口は10万9000人(2019年現在)。この町には特別な観光名所もなく、町の大部分がベッドタウンである。モスクワを見物に来た外国人が、どういう訳かレウトフへ行くことになったというのは、なかなか想像できない。しかし、他でもないこの町の、地下鉄駅から徒歩20分のマンションの1階に「母のカレー」はオープンしたのである。 |
大坪さんは、こんな値段だとすぐに倒産してしまうかもしれないと冗談めかして言う。しかし、彼のこの小さなビジネスは、コストを最小限に抑えることで価格を低く抑えられるよう、すべてきちんと計算されている。高価な陶器の食器の代わりに、彼は(環境に申し訳ないですけどと言いつつ)使い捨てのプラスチック食器を使用している。これなら洗う必要もなく、値段も安い。掃除も食材調達も事務作業も必要なことはすべて、宣伝やプロモーションに至るまで、大坪さん自身が行う。アシスタントを使うのはカレーの調理だけだ。「朝、私が基本的に一人でカレーを作ります。そしてその後はアシスタントさんと一緒に作ります。私がメトロへ行ってチラシを配って広告するときは、アシスタントさんはお昼からカレーを作ります。そしてその作ったものを朝に私が作ったカレーに加えるという形になります。アシスタントさんはキルギスの方です。その方にもカレーの作り方全部教えましたので、そしてその人が作ったカレーを私のカレーに加えますので、味は基本的に毎日ほとんど変わりません。」 |
大坪さんは、モスクワ国立大学でロシア語コースを受講した後、さらに国立ロシア観光サービス大学で別のコースを受講し、その大学で修士課程を修了した。 「大学で時々日本のカレーを作りました。ロシアのお友達に料理を作ってあげたら、みんなに「日本人、美味しいぞ、とてもおいしい。料理屋さん、始めたらどうか」と言われまして、ちょっと考えるようになりました。」 現在はSNSのおかげで、大坪さんのカレー屋は知名度を上げている。9月1日からは料理の宅配サービス「ヤンデックス・フード」とも提携しているため、大坪さんのお店には雨の日でもお客さんが来るようになっている。 |