「チャンピオンを育てる目的はなかった」
アレクサンドラ・トルソワは、2004年、ロシアの都市リャザンのスポーツ一家に生まれた。トルソワの父は柔道、近接格闘術、サンボに長けており、母は陸上をしていた。トルソワは長女で、二人の弟がいる。4歳ですでにローラースケートをマスターし、その後フュギュアスケートを始めた。
トルソワの母によれば、両親は娘に、世界チャンピオンになれという目的を与えたわけではなかった。両親はただ、スポーツは心を強くしてくれ、人生のどんなシーンにおいても自分を助けてくれるものであるから、娘がスポーツに夢中になっているのが嬉しかったのである。
全くの第一人者ではないけれど…
11歳になるころには、トルソワはすでに3回転を含むコンビネーションジャンプをものにしていた。ただ、トルソワにとって最も難しく、理想的なレベルにまで達していないのは、トリプルアクセルだ。なのでトゥトベリーゼコーチは、トルソワに対する指導方針として、4回転を磨くことにした。
しかしトルソワは女子フィギュアで4回転を跳んだ最初の選手、というわけではない。最初に4回転を成功させたのは、当時16歳だった安藤美姫である。しかし、そこで、4回転を女子のプログラムに入れるというアイデアはストップしていた。しかしトルソワは、ひとつのプログラムの中に2回の4回転を入れたという意味で、世界初の女子選手になった。
ジュニアでのスタート
2017年、トルソワは国際舞台に初めて登場した。オーストラリアのブリスベンで行なわれたグランプリシリーズジュニア部門である。そこで審査員達はトルソワの4回転に仰天した。その後、ベラルーシのミンスクで行なわれたグランプリシリーズでも当然のごとく勝利をおさめ、日本での決勝で優勝した。
「ただ、絶対にやりたいと思わなきゃだめ」
2019年秋、トルソワはシニアのカテゴリーで演技する権利をようやく手に入れた。スロヴァキアで行なわれたシーズン前の試合で、15歳のトルソワは、フリーで238,69点という世界新記録を打ち出した。これまでフリーの最高記録はザギトワの238,43点だった。ショートプログラムでの世界最高点は、紀平梨花が保持(83,97点)している。
トルソワにとって最初のシニアのシーズンである2019-2020は始まったばかりだが、すでにジャパンオープンで、4回の4回転をフリープログラム内で成功させた世界初の女子選手になっている。
ファン達は観客席で、「ゲーム・オブ・スローンズ」に出てくる女王デナーリス・ターガリエンの姿で舞うトルソワに、スタンディング・オべーションを贈った。
ジャパンオープンは、国際スケート連盟の公式試合ではないため、ジャパンオープンにおけるトルソワの功績は数には入らないものの、この事実は、トルソワに更に勇気を与えた。
グランプリシリーズ・カナダ大会において、トルソワは、フリーで4回転を4回跳ぶと宣言した。
あるインタビューでトルソワは、リンクで4回転を練習しただけではなく、羽生結弦やネイサン・チェンのビデオを見て研究したと話している。また、自分が理想的に跳ぶことができないトリプルアクセルについては、紀平梨花のジャンプを見て研究していると明かした。
トルソワは、フュギュア界の神童だ。これまでの彼女の信じられない成績をみれば、自ずと考えてしまうのが、トルソワは5回転をマスターするだろうか?ということだ。
トルソワ自身、それを除外してはいない。
「それは面白いですよ、誰もやったことがないことに挑戦するのは。そして私は、できるでしょう、でもそのためには、ただ、絶対にやりたいと思わなくてはいけません。」