ロシアの反応はかなり落ち着いていて、自制的なものだった。というのも、日本への中距離ミサイル配備がアメリカの攻撃能力に与えるものは少ないことが明白だったからだ。
アメリカはかつて、射程1770キロメートル、最大80キロトンの核弾頭を搭載する、良い中距離弾道ミサイルMGM-31C Pershing-Ⅱを持っていた。しかし、これらのミサイルはずっと以前にINF条約に基づいて撤去されている。
形式上、中距離ミサイルのカテゴリーに当てはまる唯一のミサイルが、公称射程1600キロメートル(2400キロメートルというデータもある)のトマホークRGM-109Eの改良型である。
域内のライバルに先を越される
一方で、弾道ミサイルと巡航ミサイルの戦術的な差は大きい。中距離弾道ミサイルは弾頭を宇宙に打ち上げ、そこで弾頭が目標地点まで飛行した後、鋭角の放物線を描いて大気圏に再突入して標的を攻撃する。操縦を容易にし、正確な誘導ができるよう、弾頭のスピードは2~3マッハに意図的に制限される。発射から目標撃墜までにかかる飛行時間は合計8~10分程度だ。弾道ミサイルの弾頭は飛行中のほとんどの時間、ミサイル防衛システムでは攻撃できない状態にある。そのため、中距離弾道ミサイルの攻撃は、迎撃の難しい素早い急襲となる。それが原因で弾道ミサイルは危険だと考えられ、アメリカとソ連は弾道ミサイルを撤去し、相互監視の下に廃棄する決定をしたのだ。
巡航ミサイルは大気圏内の低空(約50~60キロメートル)を時速約800キロメートルで飛行する。1600キロメートルの距離を飛行するのに必要な時間は2時間である。巡航ミサイルはミサイル防衛システムのレーダーで捉えることは難しいものの、パンツィリS1などの対空防衛システムで容易に迎撃することができる。巡航ミサイルはまた、航空機で捕捉し、ミサイルもしくは航空機関砲で撃墜することもできる。総じて、世界各国の軍には巡航ミサイルに対抗する兵器が数多くあり、実用経験も多い。
同様のミサイルはただでさえ多い
このように、アメリカの決定は現状の脅威レベルを質的に変えるものではない。アメリカは追加的な能力をいくばくか得るにすぎないのだ。これにより、一度に発射できるミサイルの数を増やし、そのうちのいくつかが標的、たとえば海軍基地のミサイル防衛システムを突破することが期待できる。しかし、この優位性は決して絶対的なものではなく、それほど本質的なものでもない。