この想像を絶する氷上の競争は、マスコミとファンが向ける熱い視線でより加熱している。こうした注目は、ここ2年で極限まで達した。記者が選手に訊ねる質問はますます挑発的になり、若さゆえに、自制する方法を身につけていない選手らは、時に不適切な、感情をあらわにした回答をしてしまい、それがマスコミのさらなる挑発につながっている。
若い選手たちは、ばかげたメディア報道、ライバル選手のファン、他の選手からの中傷にどう対処したらいいのだろうか。
代価は惜しまない センセーションこそ命
ロシアのフィギュアスケートコーチのインナ・ゴンチャレンコ氏によると、フィギュアスケート選手の精神状態の99.9%は、メディアからの圧力とセンセーショナルなものを求める記者によって悪化している。
「最近、フィギュアスケートの人気はそれはもう熱狂的で、他の全部のスポーツの影が薄くなるほどです。私の知り合いの男性でさえも、今はサッカーの試合より、フィギュアスケートの大会を見るのが好きだといいます。なぜならフィギュアスケートの大会は、どんなどんでん返しが待ち受けているかわからないからです。
記者らは騒ぎを起こすためになら手段を選びません。フィギュアスケートはどこかショービジネス化してしまい、記者は選手のインタビューの文脈からこれはと思う部分をつかみ、それを見出しに仕立て、センセーションを巻き起こす。これが選手らの気概を損なわせ、ネガティブな感情で選手らを落ち込ませてしまっているのです。メドベージェワ選手は、大会中はソーシャルメディアの使用を制限しようとしていると言っていましたが、私はそれに賛成です。」
心理カウンセラーは弱虫のためなのか?
しかし、ゴンチャレンコ氏は、ソーシャルメディアと扇情的でネガティブな報道を完全に遮断することは、それらが現代世界の現実であるがゆえに不可能だと考えている。このような状況で、心理カウンセラーは実際にスポーツ選手を支え、心的ストレスの回避方法を習得させることができる。ゴンチャレンコ氏は以下のように語っている。
「欧米では、心理カウンセラーによるサポートは普通に行われています。心理カウンセラーにジュニアの選手を診てもらおうとしたとき、選手らは戸惑いました。選手らは、自分たちで心理的ストレスに対処しなければならないと考え、専門家に診てもらうという私の提案は選手への侮辱であり自分が弱みを見せたからだと受け取ったのです。心理カウンセラーを押し付けることはできませんが、偏見は取り除くことは必要ですね。なぜなら、専門家のサポートは、特にスポーツ心理学の専門家の助けは、無駄ことはないからです。カウンセラーは選手を相手にする際には、選手のことを誰よりもよく知っているコーチと連携を取ります。いつカウンセラーを組み入れるか、またはその必要がないかは選手自身が決めるのです。」
フィギュアスケート女子シングルのマリア・ソツコワ選手(ロシア)は現在、成績が落ち込んでいる。GPシリーズ2019-2020第3戦のフランス大会では11位に終わった。
「ファン全員がSNSにまともなことを書いているわけではない」
ソツコワ選手はスプートニクからのインタビューに、自身の個人的な経験と心理カウンセラーとの作業をどう思うかについて語った。
「母とコーチが私に心理カウンセラーとタッグを組むようにと勧めましたが、私はこれは必要ないと判断したんです。今のところうまくいってる。このままで大丈夫と。ところがやがて、普段より上回るトレーニングを積んでも、どうしても成果が上がらないようになりました。こうなると失敗の原因は他にあるような気がして、自分の中で『掘り下げる』ようになります。ここまできたら、心理カウンセリングは助けになります。なぜかというと問題はいつもいつも体の変化に関係しているわけではなく、もっと総体的なことで、起きているからです。心理カウンセラーとのタッグを組めば問題を解き明かす助けにつながります。でもこれが効果を発揮するのは選手自身が真剣にのぞむ場合だけです。」
また、ソツコワ選手は4回転ジャンプに関する質問にエフゲニア・メドベージェワ選手が「疲れた」ことについてコメントした。
「ジェーニャ(メドベージェワ選手)は、(4回転に関して)何も悪いことを言おうとしたわけではないはずです。ジェーニャは自分の能力をちゃんと見極めています。フィギュアスケート選手としては熟年期にあるジェーニャには新しいジャンプを習得するのは確かに難しい。だからこそ、ジェーニャに時間を与える必要がある。なぜなら、ジェーニャにも、アリーナ(ザギトワ選手)にも実際、不可能なことは何もないからです。リンクから降りたら女子フィギュアスケート選手はみんなとても仲がよく、ネガティブだったり、一側触発のような状況はありません。」
さらに、ソツコワ選手はフィギュアスケート選手のファンサイト周辺で時々生じる好ましくない事象にとても失望していることを認めた。
もちろん、スポーツ選手はだれでも、肉体的、精神的ストレス、名声、または無名であることに対して自分なりのやり方で戦う。とはいえ、ファンによる「抗争」はこれからも止むことはなく、また今日、最高記録を出してはいても、それに代わる、より複雑な要素という武器を携えた選手が新たに現れるという事実は揺るぎない。このため選手の両親とコーチの肩にはずっしりと大きな負担がのしかかる。周囲に数えきれないほどの雑音がする中で、若いフィギュアスケート選手に新しい現実に適応し、成績と美しいスケーティングにいかに神経を集中させるかを説明しなければならないからだ。
トリノでのグランプリファイナルの前に行われるGP最終戦の日本大会(NHK杯)。この大会の氷上で選手らは再び激しい感情の起伏に耐えねばならない。ザギトワ選手、コストルナヤ選手、紀平選手のいずれもが、まだGPファイナルへ向かう最終切符を手にしていない。日本の観客は、結果の如何を問わず、自分のアイドルを心から応援する最も忠実で優しいファンだ。スプートニク通信社はすべての女子選手の成功を願っている。