アルツハイマー病には、認知症やその神経変性を緩和する薬もなければ、進行を止める治療薬もない。多くの治験薬は臨床試験で効果が出ないため、研究者らは常に新薬を研究している。
合成麻薬のLSDがアルツハイマー病に効く薬に?
研究者らは様々な化合物を用いて効き目のある治療薬を探している。科学誌「精神薬理学」には、1930年代から40年代にかけて開発されたLSDを用いたアルツハイマー病の治療研究が報告されている。LSDは人間の知覚を根本的に歪め、気分が高揚するように作用する。
研究者らの実験で明らかになったこととは?
実験は平均年齢62歳の健常高齢者48人を対象に、被験者を4つのグループに分け、各グルーブに5、10、20マイクログラムのLSDと、プラセボ(偽薬)を1日6回、3週間投与した。
LSDの投与量が安全な範囲であることを確認するために、血圧、脈拍、心電図測定、血圧および尿の生化学的分析の他、LSDが作用する時間、記憶の状況、注意力、視覚、聴覚、平衡感覚をモニタリングするなどの方法がとられた。
以上の測定で得られた数字において、LSD服用者とプラセボ服用者の間に著しい差は認められなかった。ただ、LSDを多く服用した場合、被験者の活動性がより低下することが分かった。そのため、LSD投与の反作用は発見できなかった。
LSDとアルツハイマー病に何の関連が?
実は、アルツハイマー病はうつ病を伴うことが多い。研究者らは、脳のセロトニン受容体の働きが低下するとうつ病になること、さらにアルツハイマー病の進行に伴い脳細胞が炎症を起こすその過程でうつ病を発症することに気が付いた。研究者らの間ではすでに知られているように、LSDはセロトニン受容体を活性化させ、患者の気分を改善させることでうつ病への対処に役立つという。
LSDを使った実験でその反作用がみとめられなかったことから、極少量のLSD投与で知覚に影響を与えることなく、脳細胞の抗炎症作用、抗うつ作用を示すかを調べることがこれからの研究課題となる。つまり、この試みは、現在では治療できない病気の症状を取り除くのに役立つことになるだろう。
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