ロシア人アーティストの
エレン・シェイドリン


「まさに日本で私が本当は何者なのかを知った」
インスタグラムで440万人のフォロワーを持つ25歳のデジタルアーティスト エレン・シェイドリンは、専門教育を受けていなくても、生まれながらの才能があれば、誰でもSNSを使って夢を叶えられることを体現した絶好の例だ。彼女はロシアだけでなく、世界中で称賛されている。彼女の崇拝者にはお笑いタレントの渡辺直美や、アメリカのミュージシャンSkrillex、スーパーモデルのジジ・ハディッドなどが名を連ねる。彼女の名前はブランドとなり、ナイキBMWコンバースなどの有名企業と協力している。そんなシェイドリンの人生では、彼女が個性を確立させていく中で日本が大きな役割を果たしていた。
描くことが好き、空想が尽きない
エレンはロシア欧州部の南東にあるサラトフ市の出身だ。小さい頃から空想の世界にふけり、描きたいという気持ちがとても強く、何もかもに絵を描いてしまうくらいだった。自分自身にも、モノにも、壁にも。彼女自身によると、これほどまでに惹きつけられるものがあるのは、おそらく遺伝によるものだろうという。彼女の父親は騎馬警官でアーティストではなかったが、自分のノートにあらゆるものを鮮やかな色合いで描いていた。父親の絵に感銘を受けたエレンは、もっと上手に描けるようになると決心した。
エレンはほどなくして、地元の都市でローカルなスターとなった。最初は自分のグラフィティ作品をロシアのSNS「VKontakte」にアップロードしていたが、その後、ファッションにのめり込み、古着屋で購入した洋服を自分風に仕立て直すようになり、一風変わった自分の姿をカメラで撮影するようになった。まもなくして、彼女にとって写真は頭の中に生まれる独創的なストーリーを語る手段となった。
グラフィック・プログラムが得意だが、エレンは独自のシュールレアリズムの世界の小道具を手持ちのもので、文字通り自分の周りにあるもので手作りすることを好む。
「どんな人でも、私を知るようになると、自分の周りにあるものは、それを使って世界全体を作り上げることができる素材なのだということが見えるようになります。誰でもできることなんです。」

エレン
人々のための芸術
エレンの言葉によると、本当におもしろい作品を作れるようになったのは夫であるジェーニャ・シェイドリンのおかげだという。夫は文字通り、彼女が一人の人間として成長するのを手助けしてくれた。二人はずっと昔から付き合っていたが、正式に結婚したのは最近のことで、今はサンクトペテルブルグで暮らしている。
二人はこれまでに2つの展覧会を一緒に成功させている。ひとつ目はペテルブルグで催された『シェイドリンの宇宙』、ふたつ目の『Soft Revolution』はロシアの多くの都市で開催された。2つに共通する思想はというと、それは人々への愛、そして人々がコンプレックスを乗り越えて自分を見つける手助けをしたいという気持ちである。例えば、最初の展覧会のためにエレンは美しいインスタレーションを制作し、その中で人々が自由に自分の写真を撮り、写真作品を作れるようにした。

『シェイドリンの宇宙』

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「 初めて撮影に出たとき、私は何にでもなれるんだって分かったんです。
そして誰も私に文句は言えない、だってこれはただの撮影なんだからって。
私は、誰でも、私と同じ立場になれば同じように感じられるんだということを見せたかった。それが最大の目的でした。つまり、人々を快適なゾーンから心地よく引っ張り出すことが目的だったんです。だって、自分の髪の色が何色かとか、性的嗜好がどうかなんてどうでもいいことで、自分の道は自分で選ぶんだし、他人が勝手にレッテルを貼ることなんて許さないんですから。」

エレン
「まさに東京で、私は自分が何者なのかを知った」
エレンは最初の海外個展を今年夏に東京で開催することにしている。東京を選んだのは偶然ではない。
「 東京で個展を開くことは、もちろん、私にとって象徴的なことです。というのも、私はまさにここで自分の表現方法を完成させ、自分が本当は何者なのかを知ったからです。次の個展「トランスフォーメーション」はVanilla Galleryで開催され、私のバーチャルからリアルへの脱出、ある種の「帰宅」を意味するものになります。私はその道をまさに東京から始めたいのです。終着点はサンクトペテルブルグで、多くのアーティストをひとつに統合し、彼らの声をより大きく響かせることのできる空間を作るつもりです。」

エレン
エレンはもちろんインスタグラムを完全にやめるつもりはないが、インスタグラムに対する姿勢には変化があった。今は、人々が彼女を単なるバーチャル空間のブロガーとしてではなく、広義の生きたアーティストとして見つめ、現実世界で彼女の芸術に触れられることが重要だと考えている。
エレンをこのような決意に至らせたのは、ひとつには、親友で師匠だったベトナム人ファッションブロガー GGの喪失である。才能ある彼女は自国でのサイバーブリングに耐えられず、命を絶つことを選んだ。シェイドリンにとってこれはとても辛いことだった。そして、同じような状況に陥っている人をどうすれば助けられるのかは分からないが、自分の作品を通じて彼らを応援する努力をしたいのだと語った。
インスピレーションは
ルネ・マグリットと日本のアート

エレンは自分自身を「シュールバーチャリズム」の生みの親だという。「シュールバーチャリズム」とは「夢、現実、バーチャルを創ること」を意味する新しいスタイルだ。シェイドリンによると、その根っこにあるのはルネ・マグリットのマジックリアリズムだという。シュールレアリズムは、アーティストがモノを実験し、そのモノの新しい用途や意味を考えだすことによって、つまり文字通りそれを新たに生み出すことによって達成される。エレンによると、そこに日本のアーティストとの共通点があるのだという。

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「 日本のアートは、まったく別のレベルの芸術です。日本のアーティストはベースに自分たちの神様やアニメなど、文字通り自分の周囲にあるものすべてを使います。私のものを扱うときのアプローチも同じです。その先どうなるのかは、全然分からない。アーティストに明確に決まったスタイルがあったとしても、その作品には毎回驚かされます。そもそも、私はアジアンアートの大コレクターです。全員の名前を覚えている訳ではありませんが、タッチで必ず見分けが付きます。」

エレン
「日本にいても私はあくまでゲスト、けれどやりたいことはたくさんある」
「日本にいても私はあくまでゲストでしかないと感じていますが、やりたいことはかなりたくさんあります。ここで成長して、一定期間アーティストの家に身を置き、人間関係をもっと拡げて、ワークショップに通いたいです。また、東京に自分の洋服のショップを開きたいという計画もあります。現代美術館のようなショップにしたいです。地元のアーティストと一緒に洋服を作れる共通空間があり、来た人が誰でも自分のスケッチを残していって、それが私のショップで洋服になるのを目にできるようなショップです。」
日本を旅行して:「宮崎駿のアニメの中にいるみたい」

ジェーニャ
「僕たちは日本のかなり多くの場所をまわりました。例えば、現代美術館に行くために金沢を訪れました。自分が水の中にいるような幻想を作り出す不思議なプールで撮影するために、わざわざ行ったんです。日本ではもちろん何でも厳しく、許可がなければ撮影はできません。けれど、僕たちはそれだけのために行ったんです!とにかく、素晴らしい、信じられないくらい美しい都市です。」
「ほかにも山の公園があります。私たちは自転車をレンタルしたんですが、自転車に乗っていると、宮崎駿のアニメの中にいるみたいに感じました。ちなみに、私たちは宮崎駿のすべての作品を見ています。」

エレン

ジェーニャ

「去年の京都でも自転車を借りて、すごく日焼けしました!」

「そうそう、そこでハネムーンを過ごしたんです。」

エレン

ジェーニャ
「広島にも行きました。あそこはとても穏やかな雰囲気で、完全な静寂でした。人も少なく、全く車も走っていない。」
「あそこは、すべてを大切にしている感じがしました。美術館もとても良かったです。」

エレン

ジェーニャ

「それから、養老町にとても面白いアートパークがあります。」
「そうそう!そして、奈良ではもちろん鹿と撮影しました。あのときは東京の古着屋で買ったワンピースを持っていったんです。とってもディズニーっぽく思えたワンピースです。」

エレン
シベリアをテーマにした
日本人アーティストとのコラボレーション:
「文脈のない美しいだけのものは好きじゃない」
エレンの写真プロジェクトには必ず面白いストーリーが隠れている。スプートニクは昨年8月に発表された最新作品のひとつについて詳細を聞いた。その作品はシベリアの森林火災をテーマにしており、日本のアーティストと共同で東京で制作された。
アイデアのインスピレーションになったのは、あるロシア人ジャーナリストの記事でした。私は文脈のない美しいだけのものは好きではありません。あの作品はロシアに帰る前日に私たちが一晩で作り上げたもので、本当に力強いコラボレーションでした。日本人とあんなにすぐに合意できることはほとんどありません。通常はすべて事前に決めておかなければならないんです。けれど、私のやりたいという気持ちがとても強くて、私の意志で完全に全員を立ち上がらせました。私たちは夜11時から朝6時まで撮影し、昼12時のフライトだったんですが、終わったときには私は全身炭まみれでした。その状態で白いタクシーに乗ったんです。ゴミ袋をかぶりました。ワンピースだと思った人もいたかもしれませんが、実は自分の服を着ることができなかっただけなんです。しかも靴も履いていませんでした!
エレン
さて、このロシア人夫婦、東京での展覧会で日本人たちをどう、 あっと言わせてくれるのだろうか? 展示作品に込められた、隠された意味とは? この続きは必ず今年中にお伝えします。乞うご期待!
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