1つ目は、狼に現れる人間にとって重要な兆候(例えば友好的など)の発現程度は様々であり、人々は兆候が極めて分かりやすい狼を選び、それが後に交配の過程でさらに強まったというもの。2つ目は、人々は何か他の兆候で狼を選抜し、現代に私たちが見ている犬の特徴は新たな突然変異として後に現れ、交配によって維持されたというもの。例えば短頭犬(鼻ぺちゃ犬)や短足犬である。
ストックホルム大学のクリスティナ・ウィット氏とハンス・テムリン氏は、狼の行動と人間との協調について研究した。野生動物には人間の命令に反応し従うケースも知られているが、それは主にトレーニングされた動物で、トレーナーは顔見知りであった。研究チームは、狼が全く見知らぬ人間の命令に反応するかを調べようとした。研究者は、命令を実行する能力は選別後に現れると予想したが、狼はその推測を覆した。
実験の内容は次の通り。狼にボールを投げ、遊ぶ時間を与え、その後トレーナーがボールを持ってくるように声をかける。これを3回繰り返し、命令に対する反応を「ボールに全く無関心」から「お願いを実行する用意がある」まで毎回5点満点で評価した。実験には月齢およそ8週間、檻の中で飼育された狼13匹が参加した。どれもトレーナーとは会ったことがなかった。
研究者らは思いがけず、3匹の狼が3回のうち2回トレーナーにボールを持ってきた(上記評価の5点)ことを発見した。また1匹は3回中1回持ち帰った。2匹はボールと遊んだが、命令は無視した。残る被験狼はボールにもトレーナーにも関心を示さなかった。
研究チームは、これらデータは1番目のシナリオを裏付けると考えている。昔の人々は社会的行動が顕著に現れている狼を選別した、つまり現在私たちが犬に見ている特徴が狼の自然な行動の一部であるというもの。ただ、今まで遺伝子レベルでは社会性の跡は犬で証明されていない。しかしウィット氏とテムリン氏はこの理由を、データ不十分と行動特徴の遺伝子分析の難しさとしている。
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