スプートニクは欧州選手権の結果を分析しようと、ペア五輪2冠、世界選手権2冠、欧州選手権3冠のアルトゥール・ドミトリエフ氏にマイクを向け、グラーツの大会でロシア人選手があれだけ輝かしい成功を収めたのに、なぜその喜びがある種の懐疑心と入り混じってしまったのかと尋ねた。
3人のリーダーがそろって転倒
ドミトリエフ氏は、アリョーナ・コストルナヤ(16)、アンナ・シェルバコワ(16)、アレクサンドラ・トルソワ(16)がフリースケーティングで転倒したことについて、3人にとっては、今季が人生で初めてのシニアの戦いであることを指摘している。
「シーズンの後半というのは厳しい時期とされるのが普通です。疲れが溜まって集中力が欠けてしまうからです。あんなにも練習で磨き上げたはずのテクニック的要素が急にプログラムから抜け落ちていくことがあります。それでも国際大会で蓄えた経験はある程度時間がたてば力になりますよ。あのトルソワだって難しいジャンプをキープできるようになる。なぜならロシアの女子には最難関のテクニックの蓄えという強みがありますからね。これが他を全く寄せ付けないんです。特に強いのはアンナ・シェルバコワのプログラム。これはもう男子フィギュアのレベルの要素です。
もちろん年齢が上がるとともにジュニアの持つ軽やかさやキレのある動きは失われていきますが、その代わりに演技の密度が上がり、ミスをしなくなる。これも重要な要素です。なぜならショートプログラムではどんな小さなミスも命取りになりかねませんから。」
無敵の2人を蹴散らしたアイスダンス
これと真逆の状況が出来上がったのがアイスダンスだ。ロシアのヴィクトリヤ・シニツィナ/ ニキータ・カツァラポフ組が、何年もの間、誰にも勝ちを譲らなかった、あの仏のガブリエラ・パパダキス/ギヨーム・シゼロン組の手から文字通り勝利をもぎ取ったからだ。
「仏のふたりは常に強さを見せつけてきたのですが、今回はミスを繰り返し、自分たちの方からロシアに勝ちを差し出してくれました。パパダキス/シゼロン組はもう何年も無敵でしたが、おそらく隙があったのでしょう。その間にロシア勢は首位のふたりに触れんばかりのところまで接近してしまった。両者の間にはもう隙間はありません。ですからモントリオールの世界選手権のアイスダンスでは非常に面白い戦いが繰り広げられるはずです。」
まぐれ当たりか? 男子は大躍進
男子シングルではロシアのドミトリー・アリエフ(20)が優勝。だがアリエフがこれほど権威の高い大会で優勝するとは、正直に言って誰も予想していなかった。
ロシアにとっては、この欧州選手権の男子シングルの金メダルは2012年にエフゲニー・プルシェンコ(当時29)以来、実に8年ぶり。アリエフのスケーティングはドミトリエフ氏を驚かした。
「アリエフがこんなにも見事にショート、フリーを滑るところを私は初めて見ましたよ。ですから彼にはぜひともこの先もここで収めた成功をリピートしてほしいですね。この選手には安定性が欠けているんです。審査員も観客もそろって高く評価する選手の資質というのがまさに安定性なのですから。」
常に後続に追われる身
フィギュアスケートは今、非常な勢いで進歩しているため、リーダーを固持し続けることはますます難しくなっている。ドミトリエフ氏は、五輪金メダリストでさえ絶え間なくプログラムの複雑化を迫られていると語っている。
「このことを私たちは天才フィギュア選手の羽生結弦の例で目撃しました。何年もの間、誰もあのレベルには近寄ることができなかった。ところが突然ネイサン・チェンが出現して、羽生を打ち負かしたでしょう。
同じようなことがアリーナ・ザギトワの身にも起きた。今の女子シングルのコストルナヤ、シェルバコワ、トルソワの3人トリオの出現は予想はされていた。でもそれがこんなに素早く起きるとは誰も思いもしなかったじゃないですか。」
欧州終了で突如襲った虚無 ザギトワが恋しい
今回の欧州選手権にアリーナ・ザギトワの姿はなかった。ところがわずか1度、彼女のいない欧州選手権が行われただけで、フィギュアファンたちもスポーツ専門家らも彼女に対する論調をがらりと変えた。
確かに プロたちは、難解な技がフィギュアスケートを発展させてきたという見解を前にも増して表すようになった。ところがそんなことを言っていた彼らが、ザギトワが出場者名簿から消えてしまうと、彼女ほどのレベルの選手が栄光の頂点でキャリアを降りるとすれば、フィギュアというスポーツ種目の見どころも関心も損なわれかねないと嘆いている。
ネイサン・チェンを指導するラファエル・アルトゥニアン監督も辛口の疑問を投げかけた。
「これだけ練習を積んだ人間なのに。彼女は辞めなければならないとでもいうんですか? なぜです? なぜこの先、あの五輪2冠のユヅルのようになるために、練習し続けてはならないんですか?」
目前には世界選手権2020が迫っている。だがどうしても否めないのは、国際レベルの大会にアリーナ・ザギトワの姿がないというのは、プロにも観客にも大きなマイナスだということだ。だが、やはりスポーツはスポーツ。華だけで成り立つものではない。
今年の欧州選手権でロシアは12個のメダルのうち10個をさらった。欧州選手権で1国がこれだけのメダル数を記録したことは未だかつてなかった。独フィギュアスケート連盟のウド・ジョンスドルフ・スポーツ理事はこの結果に不満を示し、ロシアの若手選手が優位を独占する事態はフィギュア界全体によくないと批判した。
「スポーツは競争の上で成り立つもの」というジョンスドルフ氏は、あまりにも若い選手がチャンピオンに上り詰めたとたん、後輩に追われるように選手生活を終えてしまうという「現在の状況の発展はあまりよくないと思います」と懸念を表している。
ジョンスドルフ氏のこの懸念だが、これは、カナダ、モントリオールの世界選手権が払しょくしてくれるはずだ。なぜなら世界選手権にはロシアにとって強豪の選手らが日本、米国など数か国から参加してくるからだ。