ヒトコブラクダ
2012年秋、サウジアラビアでウイルス性の肺炎の症状を表していた患者が病院に運ばれた。患者はコロナウイルス種の不特定の病原体に侵されていると診断された。この時以来、世界27か国で2500を超える感染例が報告されているが、その大半がサウジアラビア、アラブ首長国連邦、韓国で感染している。
中東呼吸器症候群(MERS)のウイルスは感染性はさほど強くなかった。ヒトからヒトへの感染はかなり密接な接触を行った場合のみに限られているが、その代わり致死率は異常に高い。世界保健機関(WHO)の調べではMERSウイルスで肺炎、腎不全が引き起こされた患者のおよそ40%が死亡している。
後にMERSコロナウイルスの遺伝子が解読されると、自然宿主はコウモリでそれがラクダに感染し、ヒトへとバトンタッチされたことが解明された。
2015年7月までに開発されたMERSコロナウイルスのワクチンは高い効果を発揮することがわかったことから、WHOはこのワクチンの開発が今回、中国で発生した新型コロナウイルスの対策に役に立つのではないかと指摘している。
ネズミによる感染
エボラ出血熱はアフリカ諸国の抱える大問題だが、ヒトへの感染が確認されたのは1976年。当時600人の感染者のうち400人近くが死亡する惨事が引き起こされたが、正真正銘のカタストロフィーは2014年から2015年。11か国で2万8千人が感し、そのうち1万1千人が死亡した。
エボラ出血熱の特徴は治療が効果を発揮せず、救命できた患者の体内にも後遺症が残る点だ。データーを分析した疫学者らは、エボラ出血熱の自然宿主がオオコウモリ科のコウモリと考えている。これらのコウモリはウイルスの犠牲にはならない。奥深い田舎では極度の貧困からコウモリが食用されている。
致死率の高かったウイルスも今では不治の病ではない。2016年に開発されたエボラ出血熱対策のワクチンは、100%の効果を発揮することがわかっている。
サルから始まったHIV
2019年、第10ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の新たな派生型が確認された。
オックスフォード大学の発表によれば、HIVはコンゴ民主共和国の首都キンシャサが発生源。HIVがキンシャサで発生したのは1920年代。おそらくチンパンジーからヒトに感染し、その後、ウイルスは突然変異を起こし、人体に適合する形になった。それから17年が経過し、ウイルスはキンシャサに姿を現した。1960年代、この地域では初めて大規模なHIV感染の拡大が起きている。
ウイルスは今度はハイチとジャマイカ、米国へ渡った。一度HIVウイルスに感染した場合、完治はできない。今開発されている薬はウイルスの増殖を抑え、病気の進行を止めることしかできない。