こうなったのはきっと運命!
「このプロジェクトのおかげでいろんなことを覚えることができて、それから数年後、TV出演のチャンスが巡ってきました。こうなったのは、なんていったらいいんだろう。きっと運命でしょうね。TV会社が外国人学生と面談をして、将来のプロジェクトのための新人探しをしていたんです。地元TVで自分の出身国や日本の伝統、習慣を取り上げるための外国人探しで、ロシア出身者はその時点で誰もいなかった。面談で監督が10人くらいいた参加者全員の連絡先を書き留めて、将来必要な時に連絡するねっていったんです。」
アリョーナさんは全く予期していなかったが、2週間して電話が鳴った。これがテレビ生活の始まりだった。北海道の5つのTV局のうちアリョーナさんが出演しているのはHTB、STV、TVhの3局。最初は5分と短い番組から始めて今や長期のプロジェクトの北海道の情報番組『LOVE HOKKAIDO』に出るようになって早4年だ。2020年4月、アリョーナさんは新たな生番組のプロジェクトに乗り出した。
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「私、未だに嬉しいんです。あの日、家に帰って、映画でも見ようとせずに運命を決めるTVの面接に行こうと決めてよかった。」
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白樺だって生えてる
アリョーナさんはサハリンの小さな港町コルサコフに生まれた。北海道に来たとたん、生まれ故郷のサハリン島とずい分似ていると思ったという。気候もほぼ同じ(北海道よりサハリンのほうが少しマイルド)、自然も似てるし、白樺だって生えてるし、海はすぐそば。冬は雪が降ってスキーができちゃう。
「東京と違って広々して、空や星が見えるでしょう。人も北海道の方が人懐っこいし、親切。手作り野菜やごちそうを分け合うね。」
日本で最初の研修を終え、稚内からコルサコフへと向かうフェリーの中で6時間、アリョーナさんは泣き続けた。接岸の瞬間、アリョーナさんは自分の中で誓ったのだ。私、絶対また日本に帰る。
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料理の描写に1時間かける? 日本なら普通の話
カメラの前で母国語ではない言語で話す。これに慣れるのはそう難しいことではなかった。問題は言語ではない。それよりずっと難しかったのは料理を批評することだった。
「日本の食信仰はものすごい。だから1つの料理番組に30分から1時間もかけてしまう。」
出来上がるとレポーターは試食し、味、組み合わせを事細かに批評し、使われている食材や作り方のコツを材料を尋ねなければならない。この長い描写が何よりもきつかった。
「最初のうちは『おいしい』か『すごく美味しい』、甘い、辛い、酸っぱいとかの形容詞以外何も言えなくて。それで料理漫画を読み、食べものを扱った番組を見て、新しい言葉やフレーズを覚えていったんです。おかげで表現を探して神経を逆立てたり、パニックに陥ることもなくなりました。」
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一番大事なのはエチケット
撮影では料理を美味しく見せて、うまく描写することはもちろん大事だが、エチケットの重要度だってそれに劣らない。司会は箸を正しく持ち、使うことが出来なければならない。日本人にとっては幼い頃から躾けられているのでこんなこと当たり前。となると、外国人は単に箸を使えるだけでなく、完璧にこなすことを要求されることさえある。司会が箸を正しく持っていなければTV局には苦情の電話がかかってくることもある。
撮影はロシアの場合、前もってプロデューサーがレストランやカフェと連絡をとり、撮影条件を決めるが、日本はいきなりその場で撮影に入ることが多い。撮影許可をとらない、いわゆる「アポなし」というやり方だ。こういうケースでは店の主人と交渉をするのは司会者の役目だ。交渉が吉と出るか、その結果は誰にもわからない。
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運よく撮影の許可が下りた場合、監督が番組内容を話し、店内にいるお客さんたちにご迷惑をおかけして申し訳ありませんと詫び、万一カメラに顔が映りこんでしまった場合、放映を許可してもらえるかを尋ねる。日本では個人情報の取り扱いポリシーが守られている。撮影終了後、撮影班は音をたてぬように機材を撤収し、すべてを撮影前と同じ状態に戻そうと使った皿なども片付ける。こうすることで司会者もカメラマンも店の主人も気持ちよく仕事ができるというわけだ。監督は必ずお礼を支払うが、店のほうは撮影に自分を選んでくれたことを感謝し、礼金を取らないことも多い。
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いいことも、困ることも
外国人として日本に暮らすのはアリョーナさんにとっては快適なことがわかった。
「上司は面と向かってひどいことは言わないし、追い払ったりもしない。何をして欲しいか、わかるようにもっと説明しようとしてくれるもの。」
日本では司会者が番組冒頭で挨拶をする時や広告に名前を乗せるとき、苗字プラス名前のフルネームが普通だ。でもアリョーナさんの場合は名前だけで免除されている。というのも彼女の苗字「ブズドゥガン」はロシアでさえ間違われるくらい簡単ではない。最終的には、お茶の間にみなさんにロシア人司会者の名前を覚えていただくには名前だけで十分だということになった。見方を変えればアリョーナという名前は、田中さんや山田さんのように苗字も名前もそろって書かないといけないのに比べれば日本ではそんなに多くお目にかかるものではない。
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大好きな日本で暮らすアリョーナさんが自分は他と違っているなと思う瞬間はこれだけに限らない。
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「ごめんよ。わし、英語、話せないんだ」
札幌で大学の研修時代、書類申請に市役所にいくはめになった。その時代、モバイルのナビはそれほど発達しておらず、道は自力で探すしかない。
「そりゃ、迷子になりましたよ。ところがね、向こうから優しそうなおじいちゃんがやってくるじゃないですか。あ、この人に道聞こうって、日本語で話しかけたんです。市役所、どこですかって。ところがおじいちゃんの答えにはもうびっくり仰天。だって『おじょうちゃん、ごめんよ。わし、英語わからないんだ』。これ、もちろん日本語で言われたんですよ。私の方も謝って、失礼しますって日本語で別れました。」
アリョーナさんの話では、日本では東京五輪を前に年配層も外国語の習得に熱心。今では道を歩いていれば力に満ち満ちたおじいちゃん、おばあちゃんが英語で話しかけてきて、メトロの切符の買い方、自動販売機でのドリンクの買い方など、いろいろ助けてくれようとするそうだ。日本生活の長いアリョーナさんはこんなことなどもちろんとっくの昔に知っている。それでも世話好きの日本人に礼儀正しく感謝して、英語、お上手ですねと褒めるのだそうだ。
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