ボーイングは総勢346人の人命を奪う2度の墜落事故を起こし、一時停止していた737 MAXの生産を5月末、ワシントン州レントンの工場で5ヶ月ぶりに再開した。生産は当初の予定よりも低稼働率で行う。この理由を同社は、「職場の安全性と製品の品質向上を目的とした10以上の取り組みを実施」によるものとしている。
737 MAXのソフトウェアに重大な不具合が確認されて以来、ボーイングはその修正に努めてきた。にもかかわらず、航空会社は同機の購入を退け始めた。2019年夏、サウジアラビアの航空会社フライアディールは、737 MAXの購入契約を撤回し、欧州のエアバス社に乗り換えた。世界最大手の航空機リース会社「エア・リース・コーポレーション」もこれに続いている。
ボーイングは2019年11月のドバイの航空ショーで、カザフスタンのエア・アスタナ航空、トルコのサンエクスプレス航空と737 MAX機供給に関する新たな契約を結んだものの、それ以前に発注された同型機の納品を完了させていない。(ボーイングは2020年1月に737 MAX機の生産を一時停止。発注の400機の納品は未完了)。737 MAX機の購入客が戻ってきたにもかかわらず、ボーイングはエアバスに大きく遅れを取り、ライバル社に世界の航空機の全受注件数300件のうち4分の3も持っていかれてしまった。
2020年3月のボーイング機の購入台数は、新型コロナウイルスのパンデミックによる航空業界全体の輸送危機で、大幅に落ち込んでしまった。
ボーイングの悩みの種は、受注問題だけではない。株主は2019年4月、同社が墜落事故の詳細や同機の安全性に関わる情報を隠蔽していたとして米連邦裁判所に訴えを起こしている。
未曾有のスキャンダルを引き起こした737 MAX機など、生産を終了させた方がボーイングはより容易に事態を収束できるのではないかという疑問がわくのも当然だ。スプートニクは、その点について、かつてロシアのレッドウィングス航空のCEOとトランスアエロ航空のCEOを務めたコンスタンチン・テテリン氏に話を伺った。
「737シリーズ製造を完全に終了することは不可能です。理由はこれがナローボディ機という巨大なニッチ市場であり、それを唯一占めているのがボーイングのこのシリーズだからです。ボーイングには737をおいてほかにナロ―ボディ機はなく、これは100〜200人を収容しての近距離から中距離路線をカバーできます。現在のところ、737シリーズの代替機はボーイング787型機。これは737 MAXが動いていない間、運用は可能ですが、経済効率はよくありません。これら2つの機種は、それぞれ異なる市場向けの乗客収容数に合わせて設計されているからです。そのため、737 MAXは近いうちに戻ってきます」
飛行再開で乗客の信頼は取り戻せるのか?
ロイター通信は4月、規制当局の737 MAX飛行再開の許可は8月以降になると報じていた。しかし、当局が同型機の飛行の安全性を認めたとしても、果たして乗客はこれに同意して乗るだろうか?
これについてテテリン氏は次のように答えている。
何が何でも必至の飛行再開 これがボーイングの大勝利となるか
737 MAXの問題により、ボーイングは欧州の競合企業であるエアバスに負け、潜在顧客を奪われた。737 MAX関連の損失補填に120億ドル(約1兆2900億円)の融資を受けざるを得なかったボーイングは、こうなった以上、財務是正のために何が何でも737 MAXを飛ばす必要がある。
ボーイング新CEOのデービット・カルフーン氏は、この737 MAX問題の解決には個人的にも利益が絡んでいる。737 MAXの運航が再開し、ボーイングの評判が回復すれば、カルフーン氏は700万ドル(約7億5100万円)の報酬が受け取れるからだ。カルフーン氏がこの難曲をうまく乗り切れるかどうかお手並み拝見だ。前CEOのデニス・ミューレンバーグは収拾できず、2019年12月に辞任している。新型コロナウイルスのパンデミックで空の交通量が減少している今、この問題への対処は思った以上に難しいものになる恐れがある。