その時、裏庭の窓の辺りがピカっと光り、振り向いた瞬間真っ暗になり、何が起きたのか判らず、ただうずくまっていた。しばらくすると向こうの方がボーッと明るくなり、その向こうに歩いて行くと道に出た。近所のおばさんが居り、私が近づくと「あんたは誰」と声をかけられ、「貴司です」と答えると、「あ、貴司ちゃん、一緒に逃げよう、おぶってあげるから」と私をおぶってくれた。辺りを見回しても母の姿が見えない。私は「お母ちゃんが、お母ちゃんがいない」と泣き叫んだ。おばさんが「お母ちゃんがどこ」と聞いたので、「お母ちゃんは僕と一緒に家の中にいた」と、なおも泣き叫んだ。近所の人たちも集まりだし、「お母ちゃんは、誰かが助けに行っているから、貴司ちゃんは、早く逃げなさい」と言われたので、おばさんに背負われて近所の人たちと一緒に山手方面へ逃げた。
私は、頭、顔に傷を負い、血だらけで、誰だか判らなかったとのことであった。
逃げる途中、瓦礫の中から首から上だけが出て、眼をキョロキョロさせていた女性がいた。この人はどうなったのか。私がすぐに燃え広がったので、もう焼き死んだのではないかと、いまだにあの情景が目に浮かんで、忘れることができない。