通信社「スプートニク」は、一部の温血動物が行う休眠(冬眠はその一種)の人工化の研究で科学はロシア国内も含めてどこまで進歩したのか、ロシア人研究者に解説をお願いした。
承知の通り、通常ネズミは休眠はしない。しかし、日本の研究者らは、ネズミに数日間の休眠を引き起こすため、脳のQニューロンと呼ばれる部位を活性化させた。その結果、ネズミの体温は10度または10度超まで下がり、心拍数や新陳代謝、呼吸の早さも著しく低下した。
ネズミで人工的な休眠が成功した今、今後の重要な課題はこれを人間に適応することができるか、また、休眠から覚めた後に健康上支障のない状態に戻ることができるのか、ということになる。
人間にとってなぜ休眠がそれほど重要なのか、スプートニクは、ロシア高等研究財団の化学生物・医学研究の副監督であるアナトリー・コフトゥン教授に話を伺った。
コフトゥン教授によれば、休眠が活用される主たる分野は医療現場であり、こうした状態は患者らの保護の上で役立つのだという。人体は、脳の虚血状態や低酸素、器官の過冷却、失血などの際によりよい対応策を模索する。またこのことは移植用の臓器の保存期間を著しく伸ばすことにつながる。
しかし、もっとも夢のある休眠の応用方法として、未来の人間が遥か宇宙への旅に利用するというものが挙げられる。
休眠は極限状態での身体の耐久性を高めるため、身体は生命活動にとって最小限の損失で回復することが可能となる。また、そのことによって特定の種は最終的に自然界で生き残ることになる。
コフトゥン教授は、他の哺乳類と同様、人間も人工的な休眠状態になる潜在的能力を持つと考えている。ただし、その能力を発揮するには科学の助けは必要だ。
「私たちの見解では、人間が休眠状態に達するためには、いわゆる『ターゲット』を発見する必要がある。つまり、休眠状態にするために、一定の神経群を確実に活性化させねばならない。これはまったく新しい取り組みで、まだ多くの未解明の問題があるが、私たちはこうした研究の将来性を確信している」。
ロシアの研究者らは以前からこの分野での研究を行っており、すでに休眠と類似した状態の研究で成果を上げている。コフトゥン教授は、ロシアのプロジェクトの最終目的は、熊の冬眠に類似した人工的な状況に人間を導くための薬理学的な製剤を開発することにあると強調する。
「ロシアの研究者らはユニークな医療用注射薬の開発に取り組んでいる。この製薬は8つの薬理学的物質からなる。実験の過程では、こうした注射薬のネズミへの注入が、急速なそして安定的な体温の低下を引き起こしたことが示された。その際、体温は38.5度から31.5度まで下がっている。ネズミの低体温状況は約1日、平均で16~17時間継続した。その際、心拍数と呼吸の減少、酸素消費と脳の活性の低下が見られ、 その後、心拍数の頻度と体温は当初の数値まで回復している」。
これらすべては人間を休眠状態へ導入する研究の重要な一歩だといえる。何種かの鳥を含めた動物の休眠の時間は自然だけが決定できる。たとえば、オオバハタリスは約9ヶ月間眠り続けるが、ハチスズメなどはたった1日だけしかいわゆる休眠状態に入ることができない。
人間は自分の希望通りにまた医学的な必要性から休眠状態を管理しようとすることから、人間はさらに自然から多くを学ぶ必要がある。そしてこれが研究者に解決が求められる冬眠と休眠のさらにもう1つの研究課題だといえる。