プロジェクトの予算は約90億ドル。最初に30基の衛星は2022年に、システム全体が機能を開始するのは2020年代半ばになる計画だ。これ以上の詳細は現在はまだ明らかにされていない。
そもそも人工衛星群というコンセプトが登場したのは冷戦期、米ソがミサイル攻撃を警告する人工衛星システムを宇宙に展開した時代だった。システムはミサイルが上昇する際にエンジンから発せられる炎をセンサーでキャッチし、司令センターにミサイル発射を通報していた。今回、日米が創設しようとしているシステムも構想基盤は同じだが、可能性はそれをはるかに超えて大きい。
第一に、地球低軌道に投入される約1000個の人工衛星によって地球の表面を隈なくスキャンするネット網が形成される。人工衛星は10~15個に
グループ分けされ、それぞれが飛ぶ軌道の下の地球の緯度上をスキャンしていく。衛星からのデータは受信局を通じてコンピューターに届けられ、そこで追跡地域、たとえば中国や北朝鮮といった領域の全体図が形成される。
第三に、地球の表面を全てスキャンニングして状態では、弾道ミサイルは一度に数十個の人工衛星の視野に入る。これによりミサイルの軌道の算出に必要なスピード、発射角度、方位角のデータが得られる。イージス弾道ミサイル防衛システムの可能性と合わせると、このミサイルの軌道データの初期警告で弾道ミサイルの迎撃は可能になる。
このように、こうした人工衛星システムの軍事上の意味は極めて大きい。発射の瞬間から開始して10~20秒の飛行中に発見し、1~2分でその軌道データを予測するため迎撃の効果は格段に上がる。
しかもシステム自体はキューブサットのような小型の安価な人工衛星から成り立っている。キューブサットとはミニチュア型の人工衛星(基本形は一辺の長さが10センチの立方体で重さは1.3キロ)で大学や研究組織で作られることが多い。こうした小型人工衛星の価格は発射の費用も含め、5万~8万ドルだ。軌道投入も小型の運搬機で済む。日本も2019年1月にイプシロンロケットを用いて7つの小型人工衛星を打ち上げており、その中には広島上空に人工的な流星群を作るための衛星も含まれている。小型衛星は低軌道で使われた場合、その耐用年数は通常2-3年で高度が高いと5—8年と長くなる。
軍事目的にはこれは甚だ優秀な技術であり、こうした人工衛星は打上げも簡単だ。このことで人工衛星群を常に機能した状態に維持し、軌道の把握範囲の拡大、観察の度合いの高密度化、刷新バージョンの軌道投入が可能になる。人工衛星は安価で、プログラム自体の価格は90億ドルで賄える。米国がミサイル防衛システムにいかに巨額を投じてきたか、比較のために挙げると、2018年だけでその額は115億ドルに、2019年は103億ドルに達した。そして2020年はすでに116億ドルが費やされている。
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