治験者の一人に説明不能な神経疾患が出たことを受けて、アストラゼネカ社がワクチンの臨床実験を中断した数日後、イギリスとスウェーデンの製薬会社が合併してできたアストラゼネカは、111ページに及ぶ臨床試験計画を発表した。この中で、アストラゼネカ社はコロナウイルスワクチンの有効性は50%となると言明した。アストラゼネカ社はこのとき初めて、英国で行われた臨床試験の第3相試験で、また治験参加者に深刻な副作用が出たことを認めた。
またテレグラフ紙の記事では、「7月に最初に治験が中断されたことは公にされないまま、試験は再開されていた」と指摘されている。
治験ボランティアの参加者に深刻な副作用が起きるという事例が2件確認され、いずれの場合もその後、詳細な調査を行う必要性があったにもかかわらず、アストラゼネカ社は英国、ブラジル、インド、南アフリカでの治験を再開した。ただし、米国では現在も治験は中断されたままとなっている。
米国のCNNテレビに出演した国立神経疾患・脳卒中研究所のアヴィンドラ・ナス所長は、「米国立衛生研究所の幹部は非常に懸念している」と述べた。
また米食品医薬品局(FDA)の専門家らも同様の見解を示している。
FDAのスティーヴン・ハン局長は、インスタグラム・ライヴで、サウスカロライナ州選出の共和党下院議員、ティム・スコット氏からのインタビューを受けた中で、「米国社会を守ることを目的に、いま我々はこのワクチンに深刻な安全上の問題があるのかどうかを明確にするため、アストラゼネカ社ときわめて重要な作業を行っていく意向だ」と述べた。
加えてハン局長は、「我々はすべての事実を確認できていないため、本当の原因は分からないが、これについては実際に調査する必要がある。そして我々にとっての重要な責任は、米国民の安全を守ることである」と強調した。
アストラゼネカ社はこれまで何度となく、透明性がないとして、科学界から非難されてきた。
ハーバード医科大学院およびハーバード大学公衆衛生学部の元教授であるウィリアム・A・ヘーゼルタイン博士は、フォーブス誌からの取材に対し、次のように述べている。「アストラゼネカ社の臨床試験中断の詳細は、完全には明らかにされておらず、企業内の話し合いについても公表されていない。患者の身の安全を考え、治験を中断したことは喜ばしいことだが、アストラゼネカ社の不透明な部分は、警戒を促す根拠となる。このワクチンが人命を救い、世界に普通の生活を取り戻すためのものであるならば、社会がワクチン開発における日々の達成について知ることが許されないなどということがあって良いだろうか。人は報じられている安全性の問題について知るべきである」。
危険なゲーム
アストラゼネカ社のコロナワクチンの臨床試験中断に関する報告は、チンパンジーアデノウイルスという十分な確証がない新たな技術を過度に用いることの危険性を露見した。すでに広く研究され、複数のワクチンや医薬品の製造に効果的に利用されてきたヒトアデノウイルスのベクターとは異なり、チンパンジーアデノウイルスは世界で承認されたワクチンにまだ一度も使用されたことがない。
一方、ヒトアデノウイルスをベースに新型コロナワクチンの開発を行っている医薬品会社もある。たとえば中国のカンシノ社、米国のジョンソン・エンド・ジョンソン社であり、そしてワクチン「スプートニクV」を開発したロシアのガマレヤ国立疫学・ 微生物学研究センターも同様である。