1枚のコートのために20匹の動物が犠牲に
毛皮農場にいる動物たちのライフサイクルは短い。キツネ、ホッキョクギツネ、タヌキなどの動物は春に生まれたあと、大量のホルモン注射を受け、7ヶ月にわたり狭い檻の中で暮らす。この間に動物たちは成獣の大きさにまで育ち、その後、高価な毛皮にされるために屠殺場へと送られることになる。農場には繁殖に必要となる雄雌数匹だけが残され、このサイクルが繰り返される。長さやデザインにもよるが、毛皮のコートを1枚作るには、キツネなら25匹から30匹、ホッキョクギツネなら12匹から18匹、ミンクなら25匹から45匹、タヌキなら35匹から45匹、そしてウサギなら50匹から100匹の動物が殺される。そして、人間がおしゃれな洋服を着るために行われているこうした動物虐待をいくら動物愛護団体や動物愛好家らが非難しても、毛皮・皮革産業は聞く耳を持たない。
毛皮は環境にそれほど有害ではないというのは真実か神話か?
毛皮や皮革製品のために動物を殺してもいいとする言い分の一つが、天然毛皮の方が環境への害が少ないというものである。人工の毛皮は実際、環境に良いとは言い難い。人工毛皮はもともと石油から作られており、これは製造の過程で環境汚染を招き、プラスチックを生み出す。また天然毛皮の使用を支持する人々は、天然の毛皮は人工毛皮と違ってすぐに分解されると主張する。確かにこの点については実際そうなのであるが、毛皮は動物の体から剥がされたときから分解を始めるため、分解を抑えるためにクロム、ホルムアルデヒド、シアン化物をベースにした染料など、さまざまな有毒物質が用いられているのである。
製造は禁じられても、輸入はできる
人類は少しずつ天然の毛皮や皮革の使用をやめる方向へと進みつつある。しかし、今のところ、これは全世界的な傾向とは言えない。ヨーロッパでは15の国々で毛皮製造が不法なものとされ、米国でもいくつかの州が毛皮製造を中止している。また2019年、カリフォルニアは毛皮製品の製造のみならず、新たな毛皮製品の販売をも禁止した米国初の州となった。
一方、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは毛皮産業に制限がないことから、国内外の製造者を惹きつけている。
毛皮製品の製造が禁止されている国々も、外国で製造された毛皮・皮革製品の輸入は自由に行えるという大きな矛盾がある。日本では最後まで残っていた毛皮農場が2016年11月29日に閉鎖されたが、現在でも、毛皮・皮革製品を輸入、販売することは禁じられていない。
「知ってもらうことからすべての変化が起こるので、まずは知らせること。そこに引き続き力を注がねばならないと思っています。最近では、著名な方の中にも工場畜産の問題について情報発信をされる方が増えてきています。先日は中田敦彦さんが自身のYOUTUBEでVEGANについて取り上げて、「VEGANとは『気づいている人』のこと」だと言い、工場畜産の問題について知らせ、脱動物搾取の考えからVEGANになる人はとても多いと発信されました。日本ではVEGAN=健康志向の人、と考える人が多いため、こういう発信をする著名人が出てきたのは大きな変化だと思います」。
動物の救済か毛皮産業への資金援助か?
毛皮製品の製造が法的に認められている国々で、動物たちの生命を救っているのは動物愛好家たちである。動物たちを救済するために、愛好家たちは、檻に入れられた動物を買い取って、生活しやすい快適な環境に移している。これらの動物を森に返すことはできない。野生の世界で育ってこなかった動物は、自然の中で生きて行くことはできないからだ。
毛皮農場から動物を買い取るというのが、今のところ、動物を救う唯一の方法である。毛皮農場は、動物を1匹売ると、次の年までその分を繁殖させることができなくなる。動物が子どもを産むのは1年に1度だけだからである。農場で養殖されている動物の大部分は、生まれてから死ぬまで檻から外に出ることはない。また外で捕獲された動物が農場の檻に入れられることもない。毛皮の製造に使われる動物たちは1950年代から丹念な品種改良が続けられて得られたものだからである。
一方で、毛皮農場から動物を買い取ることは、不本意ながらも毛皮産業に資金援助を行うことになる上、こうした慈善行為は状況を劇的に変えるにはあまりにもその規模が小さい。しかし、毛皮の製造を禁じる法が採択されず、社会が毛皮や皮革の使用をやめないかぎり、動物を救う方法はこれ以外にないのである。
アニマルライツセンターは、「メディアでも日本の著名人が毛皮の非人道性について発言するなど、毛皮の問題意識はかなり広がってきています。ただ、本革については残念ながら私たちはまだ運動にほとんど取り組めておらず、消費者の問題意識も低い状況です」と指摘している。
個人個人の力はとても大きい
モスクワ郊外に住むダリヤ・プシカリョワさんは、毛皮農場は、生きたままにせよ殺された状態にせよ、何れにしてもキツネを売ることになると話す。ダリヤさんは、幼い頃からの夢を叶え、2つのドッグシェルターを開設した。1つは、老犬や障害のある犬のための施設「ブージェム・ジッチ(これからも生きようの意)」で、約100匹の犬を保護している。そしてもう1つは毛皮のために養殖される動物のためのシェルターで、開設されてからの3年間で、キツネ、タヌキ、ホッキョクギツネなど、70種以上の動物を引き取ってきた。保護施設の建設と維持にかかる費用は、ダリヤさんの貯金と慈善家らの寄付でまかなわれたという。
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ダリヤさんは、ロシアにおけるこうした動物の運命についてより多くの人に知ってもらい、この問題に目を向けてもらおうと、インスタグラムでブログを開設し、シェルターにいる動物たちの写真や動画を投稿している。フォロワーたちから寄せられる質問の中でもっとも多いのは、キツネやその他の動物を家で飼う方法に関するものだという。「キツネはシャンデリアにもカーテンにも登れ、足も早く、ジャンプもするので、どんな行動に出るか予測できません。それにキツネには走り回れる場所が必要です。しかしタヌキはそうではありません。それほど俊敏でなく、また人に懐きやすいのです。しかしロシアではタヌキの救済状況はあまり良くありません。キツネと違い、タヌキは人気がなく、農場から買い取られることもあまりないのです。キツネが動物病院に運ばれても、獣医ですら、タヌキへの投薬が、犬に対するようにすべきなのか、アライグマに対するようにすべきなのか分からないそうなんです」。
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アニマルライツセンターの活動家たちも、ソーシャルネットワークや世論の力について指摘し、次のように述べている。
「近年はSNSが広まり、個人個人で情報発信できる機会は拡がっています。SNSを通じて、動物問題を知ることができますし、企業に意見を届けることもできます(多くの企業がSNSを使用しています)。動物を助けるための署名もSNSでたくさん流れています。
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ツイッターやインスタグラム、フェイスブック、YOUTUBEなどを活用して、動物問題について情報発信をすることはとても重要です。個人個人の力はとても大きいのです。SNSが苦手と言う方もいると思います。そういう方でももちろんできることはたくさんあります。毛皮や畜産物を扱う企業に手紙やメールで意見を届けたり、多くのスーパーに設置している意見箱に「ケージ卵を置かないで」「代替肉・乳の商品を増やして」などの意見を届けることもできます。チラシを活用して、実態を知らせることもできます。アニマルライツセンターは複数のチラシを用意しています」。
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