日本でも人気の高いチェブラーシカといえば、無垢で愛くるしいキャラクターだが、この店のシンボルであるチェブラーシカ、もとい、テブラーシカは、言葉は悪いが「昭和のハゲ散らかし中年おやじ」という表現がぴったりの外見だ。頭髪は乱れ、ネクタイを振り乱し、ワイシャツははだけて、不精ひげが伸びている。なので、かわいいチェブラーシカの世界観を壊したくない人は、この先を読まないでほしい。
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ネオンやドラム缶テーブルで日本の立ち飲みの雰囲気を完全に再現しながらも、縦書きなのにカタカナの長音記号「ー」が横のままになっていたりと、外国人が勘違いしそうなポイントはしっかりと間違えている。どこまで本気で、どこまでわざとやっているのか?これは「中の人」に聞いてみるしかない。
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「チェブラーシカは日本から帰ってきた」
取材に応じてくれたのは、テブラーシカの共同創業者のひとりで、この店のコンセプトを考えた、アートディレクターのアレクサンドル・ルミャンツェフさんだ。ルミャンツェフさんは前々から、日本をモチーフにした店のデザインを手がけたいと考えていた。そんな折、飲食店経営を手がける友人ドミトリー ・レヴィツキーさん、ゴーシャ・カルペンコさんから「一緒にやろう」と声をかけられた。日本食のシェフ、バーテンダー、イラストレーターなど主要メンバーも揃った。
モスクワでは、3月末から6月半ばまで、新型コロナウイルス拡大による外出制限が行われていた。メンバーはこの間に積極的に仕事を進め、外食ビジネス解禁と同時に、店をスタートさせた。店名に深い意味はなく、「チェブラーシカ」だと許可が下りないから、とのことである。開店初日にはとりあえず3日分の料理の仕込みと酒類の仕入れをしておいたのだが、1日で全てなくなってしまった。外食産業が打撃を受ける中の快挙だ。宣伝はSNSのみで、全くお金をかけていない。リピーターが多いのが特徴で、口コミで評判が広まっている。
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ルミャンツェフさん「チェブラーシカが日本で人気なのは僕たちもよく知っています。彼はもう子どもでなくて、50代半ばなんですよね。そこで、日本に長期滞在したチェブラーシカが、おじさんになって、モスクワに戻ってきたというコンセプトを考えました。つまり中年になったチェブラーシカは、日本で体験した文化を、ロシアのみんなに広めているというわけです。」
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バーだけど本格的な寿司に舌鼓
お店一押しのピリ辛ピーマンの肉詰め、お好み焼き、寿司、漬物、餃子などを頼んでみた。唯一、お好み焼きはイマイチだったが、それ以外はおいしかった。意外だったのが、寿司がとてもおいしかったことだ。最近、モスクワでは全体的に寿司のレベルが上がっているが、ここもかなり上位にランクインするだろう。テブラーシカは、主にお酒やおつまみを楽しむバーのゾーンと、寿司がメインのゾーンがあり、同じ建物で入り口が分かれている。寿司ゾーンは音楽も照明も控え目で、ゆっくりと食事を楽しむことができる。日曜日には特別メニューでラーメンが出てくる。
お隣さんとも仲良く…
テブラーシカは、表通りから全く見えないので、フラッと入ってくるお客さんはいない。表通りには、高級イタリアンレストランがあり、その脇を通り抜けると、アダルトショップと時間貸しホテルがあり、更に奥に進むと、テブラーシカがある。以前はここに隠れ家風バーがあったのだが、オーナーがビジネスをたたむことにしたため、良い場所をタイミング良く押さえることができた。
テブラーシカは、隣の時間貸しホテルのための宣伝をしてあげることにし、わざわざイラストを用意して店の前の壁に貼った。別に割引があるとか、協力関係にあるわけではなく、あくまで善意だという。ロシア語では「部屋は時間ごと、愛は永遠」とあるくらいで、大したことは書いていないが、日本語が読める人はびっくりするだろう。
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ちなみに店内奥には「男」と大きく書かれた暖簾がある。日本人からすると温泉の男湯の入り口に見えるが、これは男女兼用お手洗いの入り口だ。取材を進める中で、店側は、「男」ではなく「トイレ」と書いてあると思っていたことが発覚した。なので、女性も安心して暖簾をくぐってほしい。
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内装は季節ごとに変えていく。今は店内に紅葉が散りばめられているが、ルミャンツェフさんは、冬場に向けて、氷でバーカウンターやグラスを作る「アイスバー」を設営したいと考え、構想を練っている。また、日本のゲームセンターに置いてあるような太鼓のゲームを置きたいと、購入を検討中だ。お客さんが増えすぎて週末は座るところがないので、椅子のかわりになるビールケースももっと数を増やしたいという。
オープンから3か月しか経っていないのに、すでに店内では数本の映画撮影が行われた。テブラーシカは、毎週末に行われる様々なアーティストのライブ、北京ダックや日本風バーベキューといった特別メニューなど、常に変化を続けている。短期間での成功の秘密は、日本好きの人々やコスプレイヤーだけでなく、新しいものが好きで流行に敏感なモスクワの若者の心を捉えたことだろう。
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