女性職人だけの寿司店:「なでしこ寿司」店長が薬膳寿司、ブランド、性差別について語った

© Sputnik / Eleonora Shumilova店長の千津井由貴さん
店長の千津井由貴さん  - Sputnik 日本
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薬膳寿司という言葉を聞いたことがあるだろうか?まさにこの薬膳寿司を食べられるのが、秋葉原にある「なでしこ寿司」だ。このお寿司屋さんの一風変わったところは、働いているのが女性職人だけだという点だ。そのせいで多くの偏見もある。しかしそんな偏見に根拠はあるのだろうか?スプートニクの特派員がこの店を訪れ、薬膳寿司を食べ、店長の千津井由貴さん (33)に寿司道具のブランド、女性企業家の支援などについて話を聞いた。

薬膳の「膳」と座禅の「禅」などを合わせたコンセプト

薬膳寿司はコロナウイルスを背景にとてもタイムリーなアイデアに思える。しかし、千津井さんがこの新たな寿司のコンセプトを考え出したのはコロナよりもずっと前のことである。

千津井さん:「少し前に、アジアとかいろんな国を出張で回っていた時に『薬膳』という言葉を初めて聞きました。中国では『中国の薬膳』というのがあって、韓国には『韓国の薬膳』があるんですけど、『日本には薬膳という文化がまだそんなにないですよね』と海外の人に言われたことがなんとかあって、『あ、確かに』と思いました。

元々素晴らしい和食の文化に『薬膳』を加えて、『日本式の薬膳』というふうに考えたら面白いものができるのではないかと思いました。その時に禅の勉強をしていて、薬膳の『膳』を『禅』の考え方と合わせて、または江戸前寿司の考え方とかと全部こう合わさったら、オリジナルな『日本式な薬膳』ができるなと思ったのがきっかけです。」

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千津井さんは1年間、薬膳を勉強し、修了証書も持っている。千津井さんによると、薬膳寿司はまだ新しい概念であるため、食べたことのある人はそう多くない。しかし、薬膳寿司に最も関心をもっているのは、健康的な食事を好む女性なのだという。

千津井さんは薬膳寿司にさまざまな材料を使用する。山椒、クルミ、クコの実、松の実、白ごまと黒ごまのミックス、薄荷、エゴマスタードなど。千津井さんによると、こうしたスパイスによって、寿司が体を冷やす食べ物から体を温める食事に変わるという。

薬膳寿司と一緒に、煎茶、桜、菊花、薄荷をベースにした薬膳茶も供される。薬膳茶はフラスコから脚付きのグラスに注がれる。

千津井さんは、将来的には薬膳寿司のネタとして「薬膳サーモン」も使用するつもりだ。現在、北海道の養殖業者が薬膳を混ぜた餌でサーモンを養殖している。


アーティストを繋げる寿司道具のブランド

千津井さんはつい最近、女性らしさを取り入れた自らの寿司道具ブランドを立ち上げ、さらに大きな計画も描く。

千津井さん:「先ほど、全国の日本の文化を広げている、47都道府県の和紙を使用し海藻でできた和紙も使用するアーティストの方星野久美さんを中心とした方々とお話しして、『ツール・ド・パピエ』という新しい寿司道具のブランドを立ち上げました。昔から存在しているお寿司の道具を女性の視点から考え直して、綺麗で使いやすい道具を作りたいです。

© Sputnik / Eleonora Shumilova「なでしこ寿司」の薬膳寿司
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「なでしこ寿司」の薬膳寿司

または『なでしこ寿司』が宣伝しているか華やかで女性の視点を取り入れたような雰囲気を持った物を作りたいです。今は、例えば、新しい着物を作っていて、それは女性の寿司職人のための動きづらくない仕事着になるもので、12月ぐらいにできます。みんなの女性が『あ、寿司職人、楽しいな』と思わせるような、すごくワクワクさせるものを作っています。そういう風に様々な新しいものを作って、海外とか国内にも広めていこうという予定です。」

現在、ブランドサイトの立ち上げ中だ。昨年、千津井さんは寿司スクールも開校し、コロナ前には国内外で各種の寿司イベントも開催していた。


カワイイ系寿司から本気のお寿司屋までの道 バッシングなどについて

「なでしこ寿司」のオープンは2010年だが、女性職人のお寿司屋さんになるまでには紆余曲折あった。女性スタッフがメイドカフェのような衣装を身につけていた時代もあったし、男性の寿司職人が通常着ているような白衣を女性の職人が身につけていたこともあった。また、当時、仕入れや魚をおろすメインの仕事は男性が担当していた。

2011年に社員マネージャーを経て2014年に千津井さんが店長になり、しばらくして2017年くらいから徐々に「なでしこ寿司」のコンセプトを変え、世界初の女性寿司職人専門店に変貌させたのだ。しかし、メイド喫茶やガールズバーのようなイメージが定着してしまった店に対する人々の見方を変えるのは容易なことではなかった。しかも、最初は店長千津井が失敗することも実際にあり、このような店はこれまで存在しなかったことから、批判が集まるのももっともだったと千津井さんは言う。

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Sushi Style @nadeshicosushi !

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しかし一方で、寿司職人は男性の職業だという考え方が日本では根強いのも事実だ。しかも、女性の職人に反対する意見の根拠が迷信や偏見に近いものであることも少なくない。とりわけ、女性の手は男性よりも温かいから「ネタの鮮度が落ちる」という意見がよく聞かれる。また、「生理が味覚に影響する」という意見もある。

千津井さん: 「やっぱり人の意見ってそういうものなんです。他の男性の寿司職人たちが『なでしこ寿司はこうだ』と言うと、そう思っちゃうんです。日本は縦社会と言うんですけれど、先輩の意見は正しくて、自分の目で見るものよりも、他の人から見た意見を自分の意見と思ってしまうので、どうしようもないです。」

「なでしこ寿司」の女性寿司職人の外見について、化粧や髪飾りなどせずに白衣で仕事をするべきだと言って嫌がる人も少なくない。しかし、千津井さんによると、こうした意見に反して、店の衛生基準はしっかりしているという。特に、女性職人は髪の毛を必ずまとめており、食品への異物混入を防ぐため、バッシング以降はプロのヘアメイクやスタイリストを導入しより一層メイクや髪のセットアップには特殊なフィックス剤を使っている。

千津井さんによると、全体として店に対するバッシングは減ってきているという。また、通常は女性の仕事をバカにするために来店する他の寿司屋の男性職人も、女性職人と会話する中で、彼女たちが寿司職人の機微を十分心得ていることを知って、自分の考えを変えることもあるという。

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もちろん、日本には男性と一緒に働く女性の職人もいる。しかし、千津井さんがこれまでに出会ったそうした女性の多くは、男性の職人と一緒に仕事をするのはあまり心地よいものではないと話すという。

千津井さん:「その女性の方々は怖いと言っています。男性のお寿司の料理人はどっちかと言うと、怒鳴るんです。それが普通だと思っているので、女性の考えと違うし、私も経験があるんですけど、どうせ女性だからダメに違いないと思ってしまうので、何をするにしても『ストップ、ストップ』になっちゃうので、すごく辛いです。」

千津井さんによると、この10年で女性の職人は増えたり減ったりを繰り返している。外国人の間で日本文化ブームが起こったことや、寿司スクールが開校したことで、女性の職人の数は増えた。その一方で、女性が仕事と家庭や子育てを両立させることは依然として難しく、多くの職人が仕事をやめていく。千津井さんは、女性が家庭と好きな仕事の両立に自信を持てるような快適な環境の店にしたいと努力する。


女性への支持について ロシアのインクメーカーを使用しているアーティストも

新型コロナウイルスの流行以前、千津井さんは多くの企業で女性のための講演会を活発に開催していた。昨年は、彼女の活動に対する支持の証として、最年少のノーベル賞受賞者としても有名になったパキスタンの人権活動家マララ・ユスフザイさんも「なでしこ寿司」を訪れている。

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興味深いことに、千津井さんを支援する女性のなかに、ロシアのアルコールインクメーカー「カメンスカヤインク」のインクを使っているアーティストがいる。千津井さんが店で使っている珍しいお皿のデザインは、まさにこのインクを使って作られたものである。

日本人アーティストの女性(インスタでは「peppermint_candle」)はロシア人の友人を通じて、ロシアのアルコールインクメーカーの存在を知ったそうだ。

© 写真 : 一般社団法人日本アルコールインクアート協会/MIKA SUZUKI「peppermint_candle」のお皿
「peppermint_candle」のお皿 - Sputnik 日本
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「peppermint_candle」のお皿
© 写真 : 一般社団法人日本アルコールインクアート協会/MIKA SUZUKI「peppermint_candle」のお皿
「peppermint_candle」のお皿 - Sputnik 日本
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「peppermint_candle」のお皿
© 写真 : 一般社団法人日本アルコールインクアート協会/MIKA SUZUKI「peppermint_candle」のお皿
「peppermint_candle」のお皿 - Sputnik 日本
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「peppermint_candle」のお皿
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「peppermint_candle」のお皿

彼女の言葉を千津井さんは次のように引用する。「ロシアのアルコールインクメーカーも様々ありますが、一番どこの国にもなかったヌードカラー(パステル系の色味)のアルコールインクがあったので、カメンスカヤインクに興味を持ちました!一目で日本人が好きそうな色味だなと思ったのもきっかけです。」


千津井さんは、時間とともに新たな世代のプロの女性寿司職人を育てたいという。そして、そうした職人の働ける場が「なでしこ寿司」に留まることなく、彼女たち自身が世間から尊敬されるような寿司店を開店できるようになることを期待している。

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