いじめに2万円の損害賠償命令? 同級生からのいじめで統合失調症になった少女の事件に対する心理学者らのコメント

© AFP 2023 / Philip FONG子供たち
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京都の市立中学に在学中、同級生からいじめを受けて統合失調症になったとして、元生徒の女性が、市と同級生4人に9,000万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は女性の上告を退けた。同級生1人に約2万円の賠償を命じた二審大阪高裁判決が確定したことは、世論に衝撃を与えた。「スプートニク」がこの問題について、心理学者らの意見をまとめた。

何が起きたのか?

学校でのいじめに遭った被害者たちは、その後何年も経ってから、社会生活や健康を害し、それがいじめの影響であることに気づくことがある。これは、小学校と中学校、そして4人の同級生に対して訴訟を起こした京都府福知山市の女性の言葉である。女性は、同級生からいじめられ、また学校側が介入してくれなかったことから、統合失調症になったと主張している。しかし世界保健機関(WHO)の研究者らは、統合失調症発症の原因を一義的に特定することはできないとしつつ、統合失調症を引き起こす要因には、心理的、社会的なものがあると指摘している。

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女性は、市と同級生に対し、およそ9,000万円の損害賠償を求めていた。提訴したのは2016年だが、いじめを受けていたのは、女性が中学2年生だった2012年4月から2013年3月である。

一審京都地裁判決は、統合失調症といじめとの因果関係を否定し、4人の同級生それぞれに25万円の損害賠償の支払いを命じた。一方、学校の対応には問題がなかったとして、市への請求は棄却した。

その後、二審大阪最高裁では、いじめの加害者である4人の同級生の1人から2万円の損害賠償の支払いが命じられた。しかもこれは、いじめの事実そのものを認めた上での判決である。

女性は最高裁判所に上告したが、10月15日、上告は退けられ、同級生1人に2万円の支払いを命じるとした二審大阪高裁の判決が確定することとなった。


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人ひとりの人生を狂わせても、数万円程度の罪でしかないのか?

この判決に対しては、インターネットユーザーたちから戸惑いを表現するコメントが寄せられている。

«人一人の人生をいじめによって狂わしても数万円程度の罪でしかないという事である。»

«こういう庶民感覚を逸脱した判決が頻発するから裁判員制度が出来たと思っていたけど、全く機能していないよね。»

«これだから裁判官は浮世離れしてるって言われるんだ。高給取りの役立たず。»

«統合失調症の因果関係は何とも言えないけれど, いじめを受けてたのは事実だと認められての2万円はひどいな. いじめた側はみんなで笑ってるだろうし裁判を起こしたことで結果的に被害者側の心を立ち直れにいぐらいの衝撃でズタズタにしたと思う大きな事件にでもならない限りいじめは容認されてるのとかわらないという印象を与える金額だと思う»

«統合失調症の発症との因果関係を否定とあるが、虐めを受けた側の精神的ショックは計り知れない。何年時が流れてもトラウマとして残ったりするし、それによって友達を作ることが怖くなったり、他人と深く接することが出来ず人間不信になったりする。それに対して、2万なんておかしくないかな?»

そして、コメントを寄せている多くのユーザーたちの関心は、いまその女性がどのような気持ちでいるのかということ、そしてこの判決例が、別のいじめ事件の被害者たちが裁判で公正な判決を勝ち取ることに影響するのではないかということである。


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人は、世論を通して自分自身を判断する

「スプートニク」は心の傷を専門とする経験豊富な心理学者らに、いじめが統合失調症の原因になりうるのか尋ねた。

「学校でのいじめが統合失調症そのものを引き起こすことはないでしょう。そうした状況において一般的に起こるのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。もしこの女性に気質があったとすれば(それ以前に診断はされていなかったとしても)、長期にわたる激しいストレスが極度の適応障害を引き起こし、統合失調症が初めて完全な形で現れるきっかけとなる可能性はあります」と心理学者のヴャチェスラフ・チェレミシン氏は言う。

一方、心理学者でブロガーのマリヤ・クリヴォトゥロワ氏は次のように答えている。「統合失調症は多くの噂や論争が残された、未だ解明されていない精神疾患です。ただ、遺伝的な要素があるということはすでに確認されています。いじめが統合失調症を悪化させるとしたら、遺伝学的あるいは深い幼年期の傷など、元々の要素が何かあったと考えられます。統合失調症は、心理的な苦痛によって悪化するものなのです」。

いじめは、その人のその後の人生に、さまざまな影響を及しうるものである。

クリヴォトゥロワ氏は言う。「要因はたくさんあります。たとえば、親との関係性が希薄だった子どもにとって、いじめの影響はより顕著なものになります。またどんな人も、なんらかの集団、社会に属する必要があり、人は世論を通して、自分自身を見つめ、周囲の意見によって自己評価をするようになるのです。いじめによって、不安うつ障害、双極性障害、境界性パーソナリティ障害が悪化する可能性はあります。また精神障害だけでなく、それほど重症ではないものの、病的な完全主義やインポスター症候群などを引き起こす可能性もあります。また世界から自分自身を閉ざしてしまう人もいます」。


自殺予防のシステムは狂ってしまったのか?

この事件が起こった2012年から2013年というのは、学校に対して、いじめに対処し、講じた措置について報告することを義務付けた「いじめ防止対策推進法」がまだ採択されていないときである。しかし、だからと言って、いじめに対して然るべき罰が与えられなくてもよいのだろうか、また今回の決定は、今後のいじめに対する損害賠償を扱う際の前例にならないだろうか。

この問題においては、国家システムのある部分と別の部分がぶつかり合っている。国の統計によれば、確認されたいじめの数は増加しつづけている。さらに、学校のいじめは、若者たちの自殺の主な原因の一つとなっている。

また2020年の1年間で日本と韓国の複数の芸能人が、いじめの一種であるネット上の誹謗中傷によって、自殺している。

自殺に関する状況については別のデータもある。日本は、自殺が若い世代の主な死因となっている唯一の国である。27日に政府が閣議決定した令和2年版自殺対策白書では、昨年の自殺者数は前年より671人少ない2万169人で、全世代的に減少する中、10代が唯一、前年より増加した。15~39歳の各年代の死因は自殺が最も多く、先進国では日本だけにみられる事態として、厚生労働省は「国際的にも深刻な状況」と危機感を抱く。コロナ禍の今夏には中高生の自殺が増えており、心理的な孤立化を防ぐ取り組みが求められる。

このデータに関する質問に対し、厚生労働省の責任者はデータが不十分だとして明確な回答を避け、「さらに分析しないといけない課題。はっきりしたことは言えない」と言葉を濁している。

もし日本が本当に若者の自殺者の数を減らしたいなら、いじめについて詳細に調査し、然るべき罰を与えるべきである。今生きている人のことを考えずに、出生率の低下を懸念するのは正しいこととは言えないのではないだろうか。

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