JVTAは、映像作品に字幕・吹替をつける翻訳者を育成する職業訓練校だ。2017年4月にモスクワオフィスを開設。もともと今年5月にモスクワでフェスティバルを開催する予定だったが、新型コロナウイルス拡大の影響で延期し、オンラインでの開催を余儀なくされた。
J-Anime Meetingのエグゼクティブ・プロデューサーを務めたJVTAの浅川奈美さんは、「今後、ロシアにおける映像翻訳事業、翻訳者育成事業などを展開していく予定です。まずはその足掛かりとして、産官学共同プロジェクトである本イベントを企画し、実現しました。日露間で活躍できる高度グローバル人材育成や言葉のプロフェッショナルの育成、さらに就業機会の創出を進めていきたい」と話している。
プロジェクト発足当初から加わり、学生の中心として各分野で活躍した東京外国語大学3年の香春汐里さんは、スポーツアニメが好きという理由で参加を決めた。アニメの権利元とのやり取りは予想以上に時間がかかったが、交渉が終わったものから順次、字幕翻訳に入っていった。
香春さん「大人数の作業の進行を同時並行で把握したり、スケジュールを組んで仕事を割り振ったりしたことは、なかなかできない体験で、良い機会でした。字幕は、これだけの行程を踏んで出したものなので、それなりのクオリティになっているだろうと思っています。アニメを見たロシアの方からは「翻訳が思ったよりちゃんとしててすごい!」という声を頂きました。」
このプロジェクトを通じて、人とコミュニケーションをとったり、ゼロから何かを作り上げていくことの面白さをあらためて実感した香春さん。将来は何かの形で、日本と、ロシアや他の外国との関係発展に貢献したいと話してくれた。
大阪大学3年の杉原直樹さんにとって、このフェスティバルはかけがえのない財産となった。自分の道を見失っていた浪人時代、ソ連に詳しい声優として知られる上坂すみれさんのラジオを聞いた杉原さんは、「上坂さんと同じようにロシアやソ連について知識を深めたい」と思い、ロシア語が学べる大阪大学への進学を決めた。
「ロシアについて学び続ければ、偶然とはいえ、進路を私に示してくれた上坂さんに、いつかお礼を言える日が来るかもしれないという漠然とした思いがあった」と話す杉原さん。その願いが叶い、このフェスティバルの枠内で直接上坂さんと会い、トークショーの司会という形で、一緒に仕事をすることができた。
杉原さんはまた、ロシア初上映で今回のフェスティバルの目玉となった「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019年、片渕須直監督)にも深く関わった。このアニメ映画の舞台は偶然にも、杉原さんの出身地である広島県呉市。杉原さんの働きかけで、呉市長からメッセージを寄せてもらうことができた。
モスクワ大学を卒業し、北海道大学への進学を控えるアンナ・ポプガエワさん。主にSNSを通したイベントの告知や、動画編集、口頭通訳、「ガラスの仮面 」「GIANT KILLING」の字幕翻訳を担当した。ポプガエワさんは、ロシアでは一般的にアニメというのは子ども用だと思われているが、日本のアニメはもっと複雑なものだと話す。
ポプガエワさん「このフェスティバルで選定されたそれぞれのアニメには、例えばモラルの問題や、道徳的なテーマが含まれています。そしてアニメのストーリーは、ロシア人が一般に思っているような、単純で原始的なものではなく、良い意味で難しくて、時には見る人を惑わせるようなものです。「この世界の片隅に」のような、戦時中をモチーフにしたアニメは、アニメが実際の歴史上の出来事と結びつくとどうなるか、という素晴らしい例を見せてくれました。」
日本人と働いたことはポプガエワさんにとって、貴重な経験となった。「このプロジェクトを通して、チームの一員として動くことを学びました。また、日本の働き方のスタイルというのを内側から見たり、その道のプロの方々と、知り合いになることもできました。そして、様々な種類の仕事に短期間に取り組んだことで、自分はどういう分野の仕事が好きでうまくやれるのか、どういう仕事はまだ自己研鑽が必要なのかを見極めることもできました。」
フェスティバルが大盛況で終わったことは、インターン生にとって大きな自信になった。プログラム自体は終了したが、ロシア国内では上映作品とトークイベントを、そして日本を含むロシア国外では、トークイベントを11月22日までオンデマンドでこちらのサイトから視聴できる。
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