新型コロナウイルスは2020年の日本経済にどのような影響を与えたのか?
2020年、4月から6月の実質GDPは前期比年率マイナス29.2%で、過去最大のマイナス成長となった。緊急事態宣言が解除された後の7–9月、日本経済は22.9%成長したが、斎藤氏によれば、4−6月期の落ち込みの6割弱を取り戻したにすぎないとのこと。さらに、2019年7−9月期と比較すると、実質GDPはマイナス5.9%、民間消費はマイナス7.2%と、低い水準にとどまっている。
しかしながら、対面型サービス消費は依然として、最低のレベルにとどまり続けている。特に、外食、宿泊、娯楽などの対面型サービス消費は、4月、5月にコロナ前の2割程度にまで落ち込んだ後、10月でも6割程度の水準にとどまっている。そしてこれらの数値は、GoToトラベルキャンペーンの中止と緊急事態宣言の発令により、再び落ち込む可能性が高い。
一方、雇用情勢についても困難な状態が続いている。斎藤氏は、失業率は2020年度末にかけて3.5%まで上昇し、失業者の数は、2019年10-12月期に156万人だったのが、2021年4-6月期には241 万人にまで増加すると予想している。また斎藤氏は、雇用調整助成金の拡充を背景とした企業内の雇用保蔵は将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善を遅らせるだろうとの見方を示し、2022年度末でも3.3%と高止まりが続くだろうとしている。
(日本の働き方と労働市場のトレンドと問題については、スプートニクの過去の記事をご覧ください)。
実質GDPが元のレベルに回復するまでに時間がかかるのはなぜか?
斎藤氏は、緊急事態宣言が発令されたことにより、2020年の実質GDPはマイナス5.5%、2021年にはマイナス2%、そして2022年にはおよそ1.7%となると予測している。
第一に、斎藤氏は、緊急事態宣言が出されていなくても、日本ではすでに、外食、旅行、娯楽等の対面型サービス消費を抑制する新しい生活様式(ソーシャルディスタンスの確保など)が確立されたからだと指摘する。
次に、経済活動の制限が仮になくなったとしても、既に雇用者報酬は減少していて、企業収益も大きく悪化していることである。従って、制約がないからと言って、個人消費、設備投資が盛り上がるということは非常に難しくなる。
続いて、斎藤氏は、中長期的には、外食、宿泊、娯楽業の倒産、事業規模の縮小が需要の回復を遅らせる一因になると見ている。
そして4つ目がワクチン問題。ワクチンについては特に金融市場では期待が大きい。しかし、斎藤氏は、ワクチンには過度の期待は禁物だと指摘する。
斎藤氏:「私は医療の専門家ではないので、ワクチンにどれだけの効果があるか、もしくは今までと種類の違うワクチンというのがどれだけの危険があるか、それについてはわかりません。ただ、一般論として、ワクチンには一定の確率で副反応が発生するということは確かです。日本は、欧米と状況が非常に違っていまして、新型コロナウイルスの罹患率と死亡率は非常に低ということがあります。このような条件下では、ワクチンのベネフィット、つまり、感染、重症化を予防するというベネフィットに対する相対的なリスク、副反応が高くなる可能性が心配されるわけです」。
このように、斎藤氏は、実質GDPがコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年7-9月期、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023 年度と予想している。
緊急事態宣言が延長された場合、経済予測はどう変わるのか?
今のところ、緊急事態宣言は2月7日までとされている。しかし、たとえば1月15日の東京の統計を見れば、感染者は2,000人を超えている。つまり、緊急事態宣言の期限が切れるまでに状況が改善するとは考えにくく、宣言は延長される可能性が高い。その場合、経済予測はどのように変わってくるのだろうか。斎藤氏は、スプートニクからの問いに答え、次のように答えてくれた。
もう一つ付け加えておきたいのは前回の緊急事態宣言の時と比べて、日本経済の耐久力が大きく低下しているということであります。 例えば、失業者の数で見ても、企業の業績で見ても、前回の緊急事態宣言前は比較的正常だったわけですが、今回は緊急事態宣言が出る前から、平常時よりは極めて悪い状態にあったわけであります。従って、経済的なショックが小さいとしても、例えば、倒れてしまう企業が大きく増えるというリスクは十分にあるというふうに考えています。
政府がやるべきことですが、私は過剰な自粛、もしくは制約というのはなるべく避けるべきだというふうに考えますが、緊急事態宣言をした以上、お金は倒れそうな企業、もしくは個人に給付すると、そういうところに政策の重点を置くべきだと思います」。