孤独化する民族
2019年に内閣府が発表した調査の結果によれば、日本における65歳以上の高齢者の数は、3,515万人という記録的なレベルに達した。つまり人口の27.7%が高齢者ということになる。
一人暮らしの生活は日常生活の困難(危険な運転、病気などで動けなくなったときに救急医療をすぐに受けられないなど)を引き起こすだけでなく、まったく会話をしないという状況を生み出している。
内閣府により発表された「高齢者の経済生活に関する意識調査(2011年)」では、会話の頻度についての問いで一番多かった回答は1週間に1回、次に多かったのが1週間に1回未満であった。つまり高齢者は一人暮らしをしていることに加えて、日常的に誰かと会話することがほとんどないということである。このような条件下で、5人に1人の高齢者が「困ったときに頼れる人がいない」のも当然のことだと言えるだろう。
高齢者がなぜ社会から隔離されているのかについて考察し、孤独死をなくすことが、新たな大臣が取り組むべき課題である。長期にわたって出生率が低下し、国民全体が高齢化する中、数十年後には、今の若年層も誰にも面倒を見てもらえない孤独な高齢者となる可能性は高い。
自殺者の急増あるいは「特有の悲劇」
新型コロナウイルスの感染拡大で苦しい状況に追いやられたのは高齢者だけではない。日本における自殺の件数は近年、減少傾向にあるものの、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の野村周平氏の調査によれば、2020年7~9月の女性の自殺死亡者数は統計的予測範囲を超過していたことが明らかになった。
一方、女性の自殺死亡者数が増えているもう1つの理由は家庭内暴力である。
通常、会社に出勤している男性が、外出自粛のために在宅勤務となり、妻や子ども、家事などに直面することから、そのストレス発散や暴力の矛先を家族に向けるようになっている。特にその被害を受けているのが女性である。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、コロナ禍において世界中で家庭内暴力が増加しているとの声明をなんども出している。
自殺か孤独死か ―コロナ時代の新たな傾向
菅義偉首相は、 孤独・孤立の問題は、コロナによる制限措置により、深刻化しているとして、坂本大臣に、「コロナ禍の長期化で女性の自殺も増えている。問題を洗い出して総合的な対策を進めてほしい」と要請した。
さらに、子どもの貧困に関する状況を把握すること、高齢者への支援を調整することも、坂本大臣の職務となる。
一方でこうした問題に直面しているのは日本だけではない。英国では2017年に、テリーザ・メイ前首相が孤独担当大臣のポストを新設した。当時、メイ首相は「多くの人々にとって、孤独は現代の生活の悲しい現実です。わたしはその現実に立ち向かい、我々の社会や高齢者の介護者、愛する人を失った人々―そして自分の考えや体験を話したり分かち合う相手のいない人の孤独に対して、行動を起こしていきたい」と述べていた。
アラブ首長国連邦政府はさらに踏み込んだ措置を講じている。2016年に、ムハンマド・ビン・ラシド・アール・マクトゥーム首相は、アラブ首長国連邦は世界でもっとも幸福な国でなければならないとして、幸福大臣というポストを新設、オフード・ルーミー氏を任命した。大臣に与えられた職務は、国民と政府の仲介役となり、国民の願いを聞き入れ、それを政府に伝達し、政府の対策を単なる書類に終わらせず、実際に機能させ、人々をより幸福にするためのものにすることである。アラブ首長国連邦は、2020年の世界でもっとも幸福な都市ランキングで35位となったのも、幸福大臣の努力の結果かもしれない。ちなみに、日本の都市でこのランキングに入っているのは東京だけである(79位)。
アラブ首長国連邦のこの試みは世界の他の国々でも評価されている。2016年にアラブ首長国連邦を訪問したロシア連邦議会のワレンチン・マトビエンコ議長も、幸福省はロシアで創設しても非常に有効なものになるだろうと指摘している。日本においても、このたび新たに設けられた孤独・孤立担当相の仕事によって、日本人の生活がより良いものになる可能性は十分にある。