日露協力の好例、タンパク質結晶生成実験
日本とロシアの宇宙分野における協力で最も成功しているのが、高品質のタンパク質結晶を生成する実験だ。この実験は、国際宇宙ステーション(ISS)内にある日本の実験棟「きぼう」の中で行われている。一度の実験で複数種類のタンパク質を取り扱うことができ、日本とロシアそれぞれの研究者が、個別の研究テーマに応じたタンパク質を持ち寄るというユニークな実験である。日本が「きぼう」内での実験や地上解析などをロシアに提供するかわりに、ロシアは自国の補給船「プログレス」や宇宙船「ソユーズ」を使って実験サンプルの打ち上げ・回収などを担当するという、お互いが得意とする活動を提供しあうバーター(交換)が成立しているのである。
コロナ禍で再確認できた日露の絆
コロナ禍でのロシア駐在が決まり、昨夏から就労ビザの取得手続きを始めた。ロシアはそのタイミングで高度な専門性をもつ外国人(HQS)の入国制限を一部緩和したが、その手続きには不明瞭な点が多く、どの日系企業も手探りで対応してきた。
和田氏「コロナで仕事の進め方が今までと変わってきていると思いますが、宇宙の活動においては、むしろそのような変化に上手く対応し、乗り越えることができていると考えています。前所長の日露間の行き来や、私の就労ビザの取得手続きにあたっては、「ロスコスモス」(ロシア国営宇宙企業)が後ろ盾になり、申請などのサポートをしてくれました。コロナ禍でむしろ、日露の強い結びつきが再確認できたと感じています。」
ポストISS、ロシアと組む可能性は?
15か国が共同で運用しているISSは、少なくとも2024年12月まで運用を続けることで各国が合意している。ISSは人類の比類なき平和プロジェクトと言われ、20年間にわたり宇宙飛行士が滞在し続けてきた。しかしそれより先の運用延長については、現在、各国が議論を進めている段階だ。一方、米国の民間企業や中国は、独自プランを掲げている。和田氏は「15か国以外の国や民間企業において新しい宇宙ステーションに関する議論が盛り上がるのは悪いことではない。私たちは、ISS運用延長の議論と並行して、いまできることを追求していくべきだ」と指摘する。
現在、ISSには野口聡一さんが滞在中。4月20日以降には、日本人で2人目のISS船長を務める予定の星出彰彦さんが飛び立つ。その後、2022年頃には若田光一さん、2023年頃には古川聡さんが続く。彼らは皆、米国の新型宇宙船に搭乗する予定だ。2011年に米スペースシャトルが退役し、昨年にスペースX社の「クルードラゴン」が打ち上がるまでは、ロシアの宇宙船ソユーズが唯一、ISSに宇宙飛行士を送り届ける手段だった。和田氏は「日本人宇宙飛行士が米国の宇宙船に搭乗する場合でも、ロシアの重要性は変わらない」と話す。
有人宇宙活動にとどまらない協力の形
「新しい日露の宇宙協力を切り開きたい」と話す和田氏。その中のひとつが、ロシアが2025年の打ち上げを目指す紫外線宇宙望遠鏡(天文衛星)「WSO-UV」だ。この望遠鏡によって、酸素をもつ太陽系外の惑星の発見が期待されている。もしそのような惑星が見つかれば、地球以外に生命が存在し得るかどうかの議論にも大きく役立つだろう。この「WSO-UV」に、日本が観測装置の一部を提供する計画だ。
和田氏「JAXAモスクワ事務所のこれまで10年間の活動は、主に有人宇宙活動、つまりはISSに関連したものでしたが、今後は宇宙科学など他の宇宙活動の分野にも協力を広げられればと思います。WSO-UVについてまだ覚書は締結できていませんが、相互に有益な条件でロスコスモスと協力できるよう、様々な調整をモスクワからも後押しをしていきます。」