同等の米朝対話は可能か?
著名な米国研究家で欧州国際研究総合センターのドミトリー・スースロフ副所長は、バイデン大統領の対北朝鮮政策はさらに数か月は策定段階のままだろうが、今の時点で徐々に輪郭は表されはじめているとして、次のように語っている。
米中サミットは地域の対立の鎮火には功を奏した(北朝鮮は核実験、ミサイル発射を一時停止)が、実際はトランプ氏本人が作ってしまった問題を取り除いただけのことだった。
トランプ氏は北朝鮮にミサイル攻撃も辞さないという強硬なレトリックで状況をエスカレートさせておき、その後で自分のほうから金正恩氏とのサミットを頼りにこの状況を鎮火させた。だが結果的には米朝交渉の戦略的ブレークスルーは達成されなかった。
スースロフ氏は、バイデン氏は前任者のようなリスクの高い方策に出る気はさらさらないはずだと見ている。
問題は軍縮から人権まで
ロシア科学アカデミー極東研究所朝鮮(コリア)研究センターのコンスタンチン・アスモロフ 氏は、バイデン氏のホワイトハウス入りと同時に民主党が注視しようとしているのは北朝鮮の軍事開発だけではないとして、次のように語っている。
「北朝鮮問題で共和党が何よりもまず力点を置いたのは同国の核ミサイルプログラムだった。民主党は人権問題を『復活』させようと目論んでいる。」
ただしスースロフ氏は、こと北朝鮮に関しては米国も人権問題を首位に押し出すことは叶わないとして、次のように語っている。
「北朝鮮との対話ではこれは全く意味がないどころか、逆効果だ。米国は核兵器、ミサイルプログラムといった最優先となる問題の解決はかなり難しいだろう。」
新米政権から始まる北朝鮮戦略
スースロフ氏は、米朝二国間外交は米国で政権が交代する度に最初の段階ではぎくしゃくするが、実際はこれはいたって普通の現象だとして、次のように語っている。
「北朝鮮は公式的には、米国が最初に出してくる対話へのシグナルを無視しつづけている。これは北朝鮮に典型的な、静観の姿勢だ。こうすることにより北朝鮮は妥協の余地のないふりをし、将来の交渉でとる強硬姿勢を示して、駆け引きの条件を引き上げていく。だが北朝鮮はこうした後になんらかの相互関係に出るのが普通だ。金正恩氏が同等に立つ米朝サミットが行われないということにどう反応するかは何とも言い難い。だが国務省レベルの二国間交渉やブリンケン米国務長官の訪朝は十分可能だ。」
問題解決に重要な役割を果たす中国 それを自分から追い出す米国
スースロフ氏は、米中対立が続く中では中国には新米政権に手を貸そうという動機など一切ないと指摘している。
「北朝鮮の核ミサイルプログラムは米国が北東アジアにおける自国の軍事インフラを拡大するために功を奏した。これは中国には大きな嫌悪を抱かせた。だが米国は地域安全保障および北朝鮮に対抗するには必要不可欠と主張し、結局は米国との対立にまで事は至った。それに中国は本当に北朝鮮問題のエスカレート化を止め、部分的な解決を図ろうとしていたのだ。ところが現在米国は地域に展開したミサイル防衛システムがまず矛先を向けているのが中国の軍事抑止であることを隠そうともしていない。このため北朝鮮問題の解決にはよらず、米国はこの先も同地域での軍事プレゼンスを拡大していくだろう。中国はこうした対立の中ではもう自国のために北朝鮮問題解決の論拠を探すことはないはずだ。」
米国は目的まではますます遠く、北朝鮮の方はより接近?
米国の最終目標が何かについてはスースロフ、アスモロフ両氏とも北朝鮮の非核化という見解で一致している。ただしこれはいかなる米政権においても実現できていない。それは北朝鮮にとっては核兵器の保有こそが実存主義的問題だからだ。北朝鮮は国の生き残りをかけて、主権を維持するために核兵器は必要だと考えている。
敵国の領域まで届く核弾頭を開発する核ミサイルプログラムの今後の発展もまた同じであり、北朝鮮の主な標的は米国の大陸部なのである。