シェルバコワは簡素化、トルソワは練習でサプライズ
アンナ・シェルバコワ(16)は世界選手権のためにプログラムを難解にするのではなく、予想に反して代わりに4回転ジャンプは1つに留めるまでに簡素化した。このおかげで日本代表団のトップの紀平梨花選手にとっては、2020/21シーズンの最重要な国際大会で金を勝ち取る課題がぐんと容易くなった。
これだけのコンテンツがあれば、「ロシアのロケット」はライバルの誰も到達できっこない、フィギュアの「宇宙空間に跳んでいく」ことができる。
偶然要素 紀平のチャンスにどう影響?
国際フィギュアスケート連盟(ISU)は開幕前に出した記事で、シニアの世界選手権に初出場を果たすロシアのアンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワ両選手を「4回転の女王(クワッド・クイーンズ)」と呼んだ。だがこのタイトルは紀平が絶対に狙っている。
紀平選手の一番の強みはパンデミックの間、トリプルジャンプに磨きをかけただけではなく、自力で4回転ジャンプを習得し、しかもそれを世界選手権の場で出すつもりだということ。シェルバコワがトリプルアクセルを跳べず、4回転は1種だけだということを考えると、4回転が2種跳べる紀平が上回る得点を出す可能性は十分にある。
史上初のジュニア世界選手権2冠のロシアのエレーナ・ラジオノワ氏は、シェルバコワがプログラムを簡素化したことに何の不思議もないとして、次のように語っている。
「女子らは世界選手権に照準を合わせる中で、余計なリスクをおかすよりも、まずミスのないクリーンな演技に集中しています。だから自信をもってできるコンテンツをやろうとする。そうはいってもどんな転倒もリスク同様、一度おかせばランクをぐんと下げてしまう。」
シェルバコワはダブル・アクセルを跳ぶ代わりに、いきなりトリプルアクセルを初披露する可能性ももちろんある。だがラジオノワ氏はその可能性は薄いとみている。
「トゥトベリーゼ・チームはトリプルアクセルの練習風景の動画をどこにも出していません。国際大会でウルトラCの技でプログラムを複雑化させるのは大きなリスクです。アンナ(シェルバコワ選手)は(4回転フリップ、4回転ルッツ、難解な連続トリプルジャンプという)ウルトラCのコンテンツを持っていながら、なぜリスクを侵す必要があるでしょうか? これらの要素はものすごく値が張るものですよ。これだけのコンテンツがあればトリプルアクセルなど跳ばなくとも最高点が取れる。」
「ロシア女子と争う紀平がストックホルムで狙っているのは表彰台に上ることではなく、絶対に金メダルのはずです。それでも世界選手権というのは本当に予想がつかない大会で、選手はどんなに体調が万全でも心理的に持たないことがあります。ですから勝利者を正確に予想するのは本当に難しいんです。」
エリザベータ・トゥクタミシェワ(23)もまた紀平の手ごわいライバルでメダル争いに入ってくる力は十分に持っている。トゥクタミシェワは紀平と同様、トリプルアクセルを2度跳べるが、異なるのは現時点では4回転はプログラムに入れようとはしていない点で、ここで紀平には優位を譲っている。
チーム替えで「近代化」後の「ロシアのロケット娘」
ただし、一番の注目の的は間違いなくアレクサンドラ・トルソワ。その稀有な才能を専門家らは声を揃えて認める。プルシェンコ氏のチームでこの1年、研鑽を積み、「ミスを克服する」ために必死で練習したおかげでその才能はまさにストックホルム世界選手権で十二分に光り輝くまでに開花した。
ロシア人コーチでラジオノワ氏も師事していたインナ・ゴンチャレンコ氏は、トルソワは新たなチームで言わば「近代化」されたおかげで、4回転ジャンプに安定性が出ただけではなく、滑りに芸術性も滑らかさも加わったとして、次のように語っている。
「アレクサンドラ(トルソワ)は、この非常に難しいシーズンの滑り出しは安定性が持続していませんでした。トゥトベリーゼ氏からプルシェンコ氏の元に移って、新しい作業メソッドに慣れるのに時間がかかったのでしょう。でももう、シーズン終わりの時期になると、世界選手権までには選手らは最高のコンディションになります。」
このため専門家らは「ロシアのロケット」トルソワがまさにストックホルムで信じがたく難解なウルトラCのコンテンツをやり遂げて、本当に「飛んでいく」可能性もありうるとみている。
最強の技のトルソワ 五輪を賭け、さらなるリスクに挑むか?
トルソワはプログラムにトリプルアクセルを入れなかった。だが練習では2度も跳んだということは、プログラムを複雑にするつもりなのだろうか?
「ロシアのロケット」がリスクを冒して、シニアの国際大会で表彰台の頂上に上るという望みを叶える気構えにあるがどうか。これはあと少しでわかる。
ストックホルムの世界選手権はトルソワにとっては五輪に最上の成績での申請を出す、ほぼ唯一のチャンスだ。次のシーズンにはトゥトベリーゼ・チームのもっと若い4回転ジャンプ組が戦いを挑んでくる。マイヤ・フロミフ(14)はつい最近2つの4回転を成功ているし、カミラ・ワリエワ(14)だって1つのプログラムに4回転もトリプルアクセルも入れるという離れ業をやってのけている。
今回4回転は1度の紀平 五輪ではさらに複雑化?
紀平も次シーズンは4回転1つに限定せず、これに見事なトリプルアクセルとさらにもう1つの4回転を加える可能性も否めない。こうなれば世界選手権の表彰台を狙う日露の氷上対決はさらに熾烈さも面白さも増してくる。
今できる正確な予測はただ1つ。ストックホルムで最強女子らが狙いをつけるのは五輪への出場権だということだ。五輪に出るためにはこの戦いには何としても勝利しなければならない。
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