「違憲状態を国が直ちに認識することは容易ではなかった」
3月半ば、北海道の地方裁判所が全国のLGBTカップルとLGBT団体に希望と勇気を与える判決を下した。裁判所は、訴訟の主点であった国に対する1人100万円の賠償請求は退けたものの、同性どうしの婚姻が正式に認められないのは違憲と判断した。
また判決は、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と定めた憲法24条について、「両性」など男女を想起させる文言を用いていることから、「異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないと解するのが相当」とした。
今いちばん重要な問題はLGBTなのか?
このニュースに元防衛相で自民党「性的指向・性自認に関する特命委員会」の会長である稲田朋美議員が反応した。稲田議員は、LGBT法案をオリンピックまでに成立さるため、6月閉会の今国会で成立させられるよう法案を準備していきたいと述べた。
しかし、稲田議員が法案の作成・成立を急ぐことに違和感を覚える人も少なくない。
他の多くの国とは違い、日本にはすでに同性カップルの関係を法的に認めるシステム、いわゆる「パートナッシップ制度」がある。
全国60以上の自治体が、同性カップルに婚姻と同等の関係を認める証明書を発行している。しかし、法律はこうしたカップルに対して相続権や税制優遇措置など、婚姻で得られる権利を今のところ認めていない。
LGBT法については、2016年にも審議されたことがあるが、慎重な議論のせいで採決には至らず、棚上げになった。特命委員会の関係者は「当時と現在では明らかに空気が変わってきている。今回は提出できるのではないか」と述べている。自民党の下村博文政調会長は特命委員会に対して「社会全体の理解を促進し、多様性に寛容な社会を構築するため議論してほしい」と要望した。
しかし、稲田議員の性急な対応に対する反応は複雑だ。Twitterでは「LGBTって単なる性的趣向じゃん。なぜそれを認めて、権利を保証しなきゃならんの?」という書き込みのほか、もっと多くの人々が困っている社会問題に政治家は目を向けるべきだと呼びかけるコメントも見られる。例えば、夫婦別姓問題である。
また、法案に反対する人々は、日本国憲法は婚姻を同性の合意と定めているとコメントし、憲法改正が必要になることをLGBT法案の支持者に対してほのめかしている。そのひとつがこのコメントだ。「憲法24条の『婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し』との矛盾についてはどのようなご見解ですか?憲法改正を進めるということでしょうか。」
憲法24条の「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し」との矛盾についてはどのようなご見解ですか?憲法改正を進めるということでしょうか。
— tsakaossan@Make Japan Great Again (@tsakaossan1) March 17, 2021
「稲田は、立憲民主党に移籍しろ。同性婚は、結婚出ない事は明白。男と女が結びつくものが結婚。自民党は、変態社会を作ろうとしてる。保守の狼煙を降ろしたな。稲田は、反日フェミニストだ。」
稲田は、立憲民主党に移籍しろ。同性婚は、結婚出ない事は明白。男と女が結びつくものが結婚。自民党は、変態社会を作ろうとしてる。保守の狼煙を降ろしたな。稲田は、反日フェミニストだ。
— 遠藤孝 (@ohha_takappe) March 17, 2021
「自民党は、女性蔑視が身に染みわたってるおじいちゃん連中(森とか)と、それに色目を使って媚びる女性たち(杉田とか丸川とか)、その女性たちを使って票田を稼ぐ単細胞(安倍とかガースーとか)、その辺ぜんぶ辞職させるべき。そうでもしなければ、もしくは政権交代しなければ、ジェンダー平等も、夫婦別姓も、刑法改正も、全く進まないです。」という匿名のコメントもある。
別のコメンテーターもこれを支持するコメントを書いている。「『伝統的な家族観』=高市早苗、杉田水脈、山谷えり子などのカルト連中のことだ。こんな連中、相手にすることない。」
スプートニクは稲田議員に現状に対するコメントを求めたが、この記事の執筆時点で、回答はまだない。
オリンピックは社会に変化をもたらす大きな後押しとなる。実際、すでにいくつかの変化がもたらされている。しかし、開幕まで残された時間は少ない。その一方で、性差別やジェンダー間の不平等を露呈させる事件は増える一方である。LGBTを認めることは当然重要な問題だが、この問題が日本の政治家による女性蔑視発言や性差別発言など、他の不平等の問題よりも優先されるべきなのかどうかは疑問だ。
外国から認められることやリベラルな価値観を求めるばかりに、政治家が健全な判断力を失わないことを、社会を悩ませる他の問題を忘れないことを願うしかない。
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