「魔女見習いをさがして」は、1999年から放送開始された大人気アニメ「おジャ魔女どれみ」の20周年を記念して作られた新作。日本では昨年11月に公開され、毎日映画コンクールでアニメーション映画賞を受賞している。かつて夢中で「おジャ魔女どれみ」を見ていた、年齢も性格も住んでいる場所も違う三人が、思い描く未来が見えずに迷いながらも、新たな一歩を踏み出していく物語だ。
モスクワ在住の映画監督、木下順介さんによると、モスクワ国際映画祭は「伝統的に日本映画を高く評価してくれている。映画祭の中でも、カンヌやヴェネチアに比べると、内容が深く、しぶい映画が選ばれる傾向」だという。
そんな中で日本アニメ、しかも既存のアニメシリーズを下敷きにした作品が公式上映されるのは珍しい。選考委員会のメンバー、映画監督のエフゲニア・チルダトワさんに話を聞いた。
チルダトワさん「日本人にとって、アニメが生活の中にあることはよく知っています。映画祭としても、日本のアニメには特別な関心を抱いてきました。これまでアニメを避けていたのではなく、良い映画を探していたんです。今回、日本からは『偶然と想像』のようなアートハウス系の映画も選びました。でも映画祭は多様であるべき。構える必要がなく、軽い感覚で楽しめて、笑ったり悲しんだりできて、心が温かくなるような映画が必要です。アニメだから子どもっぽいとは思いません。ヒロインたちはもう大人ですよね。大人の抱える普遍的な悩みが投影された良い映画だと思いました。」
映画祭にあわせてモスクワを訪れた東映アニメーションヨーロッパの河内隆次社長は、これをきっかけにもっと日本のアニメをロシアへ広げていきたいと話す。
河内社長「ロシアはこれからしっかりと入っていきたいマーケットなので、第一歩が踏み出せました。『魔女見習いをさがして』はアニメとリアルライフが融合したような作品で、日本でアニメがどういうふうに若い人たちに影響を与え、励ましてきたか、ということがよくわかるので、この作品が選ばれて良かったです。これからロシアでもっと浸透するためには、会社の垣根を超えて、みんなで日本アニメの基盤を作っていくことが重要だと思います。」
上映終了後、何人かの人に感想を聞いてみた。アニメ全般に関心があるという23歳男性は「見ている人のリアクションというか、自分も含め、そこにいる人みんなで一緒に笑ったり悲しんだりする感覚が伝わってきて、客席の雰囲気が良かったです。それに日本の景色がとてもきれいだし、料理が美味しそうでした」と話してくれた。
日本のアニメといえばスタジオジブリしか知らなかったという母娘連れは「日本にはこういうアニメもあるのかと新鮮でした。抱えている悩みは万国共通だし、私も女性としてすごくよくわかりました。娘にも、主人公たちのように、心から助け合える友達ができてほしいです」と話してくれた。
映画祭は29日まで。メインコンペティション部門には、コロナ禍における親友の死や母親の介護を描いた「女たち」、現代の女性監督部門には蜷川実花監督の「Diner ダイナー」が参加している。また、映画祭のプログラム・ディレクターであるキリル・ラズゴロフ氏の人生に影響を与えた映画として、1976年に公開された問題作「愛のコリーダ」が話題を呼んでいる。
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