ロシア・東欧のアート書籍専門店 イスクーストバ 店主の稲葉さん、ロシア美術への愛について ロシア美術は世界文化の重要な一部である。しかし、西欧や米国の美術と比べ、ロシア・東欧圏の美術は現在の日本で広く認知されているとは言い難い。ロシア・東欧のアート書籍専門店イスクーストバの店主、稲葉直紀さんはこのように考えている。稲葉さんは、できるだけ多くの日本人に面白く分かりやすい方法でロシア美術を伝えたいと考えている。稲葉さんとロシアとの出会いとは?ロシア美術のどこが好きなのか?今後はどのように活動を拡大させていくのか?スプートニクが稲葉さんに聞いた。 |
子ども時代の稲葉さんはルノワールやシャガールの展覧会に行くのが好きだったが、芸術に真剣にのめり込んだことは一度もなかった。しかし、在学中のロシア渡航がすべてを変えた。
『お酒の代わりに本を出す"本のバー"』
「最後に開催したイベントは昨年の11月でした。東京石川台の古書店タバネルブックスという住宅街の本屋さんで『お酒の代わりに本を出す"本のバー"』というコンセプトで、カウンター席に座っていただき、お客様のお好みをお聞きして本棚の中から厳選したロシアと東欧のアートブックやチェコの絵本を紹介していました。
残念ながら、コロナの影響で人数制限がありましたので、多くのお客様を集めることができませんでしたけれども、これからもこういうような面白いイベントを行いたいと思います。」
「ロシアのアートに関する本は色んな観点から見ても本当にすごいです。本のデザインとか装丁とかもものすごく凝っているし、気合いが入っている。もちろん日本の展覧会も図録とかカタログはありますが、基本的にはソフトカバーで、小さくてペラペラしている感じです。けれど、ロシアのはガッシリしていて、ロシアの人は本をすごく大事にしているなと思いますね。」
レオン・バクストの「芸術世界」 「どれも好きですけれど、レオン・バクストが作った『芸術世界(ミール・イスクーストヴァ)』の作品はすごく好きですね。一般的にアールヌーボーみたいな感じで、今までの19世紀までのロシア絵画とは違って西洋主義というか、西洋に近づこうという作品です。陳腐な言い方かもしれませんが、本当にきれいな絵が多い。レオン・バクストはバレエ・リュスの衣装のデザインも担当していました。バレエ・リュスは1910年代くらいからパリとかロンドンで公演して、そこで欧州を圧巻させた。欧州でロシアのバレエが流行った時期があって、その一番の源流となったのが『芸術世界(ミール・イスクーストヴァ)』という芸術グループなので、そういうロシア発のグループが世界で有名になったという事実がすごく面白いなと思います。そこが一番好きですね。」 |
稲葉さん
そんなにたくさん人は入れられないけれど、自分を介してロシアや東欧の文化を知ってもらえるようなお店を作ろうかなと思っています。ただ本を売るだけでなく、紹介する場所ですね。本だけでなく、文化もちゃんと紹介できるような本屋さんを作ろうかなと思っています。普通の本屋さんを作っても、今は難しい。今年か来年にはオープンさせたいなと思って、クラウドファンディングも使って資金を集めていきたいなと思っています。
最後にひとことお願いします。
稲葉さん
1970年代から1980年代くらいに、日本でも一瞬だけロシア絵画ブームがあったんです。1975年頃からロシア・ソビエト絵画展が色んなところで行われるようになりまして、そこからロシア絵画にはまる人が続出したんです。しかし、ソ連が崩壊して、今はそういう機会が10年に1回あるかないかぐらいになってしまいました。昔は日本人もロシアのアートに関心を持っていた時代があったのに、今はそれが薄れてきてしまったという印象です。
ですので、今後はロシアのアートに対する関心が復活してくれれば嬉しいです。自分の正直な気持ちとして、日本人にはロシアに対する見方にステレオタイプ的なものが多いと思います。ソ連とかロシアと言ったらこれ!スターリンでしょ!みたいな。もちろん、そういうのから入ってもいいとは思うんですけれど、ソ連やロシアにはきれいな美術があるので、そっちに目を向けてもいいのかなと思っています。ロシアは芸術大国であり、音楽もすごいし、バレエもすごいし、アートもすごいに決まっているんです。そういう見方が拡がってくれたら嬉しいです。