そもそも植山氏は、4月に到来した第4波の感染拡大で、五輪は中止になると考えていたが、予想は裏切られた。そこで医師の立場から、批判を覚悟で中止要請に踏み切った。
しかし、医師ユニオンの要請後も、開催方針が見直されている気配はない。16日には、都庁でパラリンピック100日前イベントが行われ、パラリンピックシンボルのお披露目や歌舞伎俳優による舞踊の披露が行なわれている。
植山氏は、「一部の国が、危険な日本には選手団を派遣しないとなれば、IOCの方針転換が起きるだろう」「オリンピックが選挙のマイナスになることが明らかになれば、自民党内から中止を求める声が高まるのでは」と話し、国内外の中止世論の高まりに期待を寄せる。実際、15日から16日にかけて行なわれたANNの世論調査によれば、「中止」「延期」が合わせて82パーセントにのぼった。
だが、それでも7月の開催を強行した場合、何が起きるのか。最悪のシナリオは医療崩壊とワクチン接種の更なる遅れ、そして「五輪変異株」が日本から世界へと広がることだ。
植村氏「南アフリカやインド株ウイルスの国内での感染拡大は、かなり可能性が高いと考えられます。第4波が拡大している現状でも医療関係者は疲弊しています。仮に6月中に第4波が収まったとして、オリンピックを契機にすぐに第5波が起きれば、国民は耐えられず、緊急事態宣言等を出しても、国民に無視される可能性があります。国民の協力がなければ感染拡大は防げません。一部の医療従事者も耐えられないでしょう。医療崩壊は当然ですが、看護師の大量離職なども起きる可能性があり、医療がひっ迫し、ワクチン接種も大幅に遅れることになります。多くの犠牲が出ることは避けられません。」
今月に入ってから菅義偉首相が繰り返し使っているフレーズ「安心・安全な大会は可能」に対して、植村氏は真っ向から異を唱え、「安心・安全なオリンピックなどありえない。政府の取り返しのつかない誤りを正す必要がある」と危機感をつのらせる。
医師ユニオンは、政府に提出した要請書の中で、世界的パンデミック下では、コロナ感染拡大防止に何の責任も負わないスポーツ団体が五輪開催可否を決定する資格はないと訴え、IOCでも東京都でもなく、日本政府こそが明確な決断を行なう必要があると主張している。