ウリヤノフスクは沿ヴォルガ連邦管区の交通の要所であり、自動車・航空機産業が盛んで、モスクワ、サンクトペテルブルグに次いで日本メーカーが進出している都市だ。ウリヤノフスクには石油やガスといった天然資源がなく、製造業が地域経済を牽引している。今後は、代替エネルギー分野を得意とする企業の誘致に注力し、持続発展可能なビジネスを目指す。
ウリヤノフスクには、ブリヂストン、DMG森精機といった日本の大手メーカーが進出済だ。中でも、ローカリゼーションの好例として知られるいすゞ自動車の現地子会社「いすゞRUS」は、年間約5000台のトラックを製造しており、事業運営は安定している。2020年には通算3万5千台目のトラックを製造した。今後は、ロシア市場で高評価を得ているCNG(圧縮天然ガス)トラックの浸透度を高め、天然ガススタンドなど、インフラ整備を更に進めていきたい考えだ。
カンファレンスで登壇したロシア工業団地協会日本・アジア太平洋地区担当顧問の大橋巌氏は、約30年前に初めてウリヤノフスクを訪れたときの印象を「こことやっていくのは無理だろうと思った」と率直に話した。ところが、2000年代に入ってからウリヤノフスクの自動車産業が発展。2010年代になってからは、州政府のサポート体制の充実や投資家を呼び込むための強力なチームの発足によって、短期間で更なる発展を遂げ、現在ではロシアで最も有望な地域のひとつとなった。
大橋氏は、「アジアの工業団地や経済特区は、海外からの投資を招くことを前提として作られ、工業団地間の競争も激しい。しかしロシアは、ウリヤノフスクに限らず、地域経済の発展が目的であるため、誰からの投資でもよいと考え、工業団地がロシア基準で作られている」と述べ、どういう投資家を招きたいか、ターゲットをはっきりさせることが大事だと指摘した。また、ウリヤノフスクが競争力を保ち続けるには、自分たちの利点をアピールするよりも、モスクワに進出済の日系企業の課題や悩みに耳を傾け、その解決を手伝うという姿勢が好ましいとアドバイスした。