表彰式にのぞんだ上月豊久駐ロシア日本大使は、挨拶の中で岩田守弘さん(現ニジェゴロド州オペラ・バレエ劇場副総裁)や千野真沙美さんといった、ソ連時代にボリショイバレエアカデミーの門をたたき、外国人が少なかった時代に、人一倍努力して道を切り開いてきた人々の功績について触れた。
公演が始まる直前、卒業生のひとりである中田里桜さんに話を聞くことができた。中田さんは香川県出身。4年前に単身、ロシアにやって来た。ロシアでのコロナ禍という逆境にも負けず、無事に卒業の日を迎えた。
中田さん「私もコロナにかかってしまいましたが、それを乗り越えたからこそパワーがみなぎると言うか、完治した後、以前よりパワフルに踊れるようになりました。こんなに素晴らしい、ボリショイ劇場という私の大きな夢の舞台で踊ることができ、本当に幸せです。」
今後はロシアに残り、プロのバレリーナとして活動していく。中田さんの夢は、ロシアでプリマバレリーナになることだ。
ボリショイバレエアカデミーのマリーナ・レオノワ校長によれば、これまで300人以上の日本人がアカデミーを卒業し、世界に羽ばたいている。
卒業後もロシアに残り、現在は国立アストラハンオペラ・バレエ劇場のバレリーナとして活躍中の中川裕美子さん。ボリショイバレエアカデミーで学んだ時間は本当に有意義だった、と振り返る。
中川さん「厳格なロシアバレエを学べたクラシック、そしてキャラクターダンスや演技、宮廷舞踊、コンテンポラリーといったものをしっかり自分の頭で理解し、身体に染み込ませる事ができた時間でした。高校を卒業してからの留学だったので人より大分遅れてのスタートでしたが、15歳16歳の自分には明らかに実力が足りていなかったので、仕方がありません。どの授業もためになりましたが、特にキャラクターダンスが好きで、ロシア人に並べるように踊りたいと思って授業を楽しく受けていました。ロシア人ダンサーが踊るキャラクターダンスは本当に迫力があって素晴らしいんです!最終学年の年に、ボリショイ劇場でラ・フィユ・マル・ガルデの全幕公演の時にジプシーの踊りのソロを踊れたことは本当に嬉しかったです。」
現在のバレエ団でも、キャラクターダンスのソロに抜擢されたりと、アカデミーで学んだことが生かされている。中川さんは「まだ学ぶべきことは山積み。これからも努力する」と謙虚だ。
アカデミーの卒業生・山本萌生さんは、熊川哲也氏が主宰する「Kバレエカンパニー」でダンサーとして活躍した後、ボリショイ劇場のバックステージツアー、バレエの歴史を学ぶオンライン講座など、日露をまたいで、ロシア芸術や舞台の魅力を広める活動を行っている。山本さんは、卒業から時が経てば経つほど、伝統ある学校で過ごした時間はとても貴重だったと感じている。
山本さん「私が留学していた当時では考えられないくらい学校も綺麗に整備されました。寮ではWi-Fiもあって、留学環境も、またロシアという国自体も変化しました。そんな変化の激しい時代の中で変わらない伝統を維持していくのはとても大変なことですし、今後も教育のあり方が常に問われていくと思います。」
山本さんは現在、数年内に日本での開催を予定している「ボリショイ劇場芸術展」(主催:日経新聞社)の準備にも取り組んでいる。
ロシアバレエは日本で長く愛されてきた。今では、プロを目指す人から趣味で習う人、鑑賞専門の人と、それぞれがバレエを楽しめるようになり、裾野が広がってきた。これからも、ボリショイアカデミーに憧れる未来のダンサーが、次々とロシアを目指すだろう。
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