大畑さんは絵画と立体を組み合わせ、ひとつの世界として表現する独自の手法で、絵の中の空気や世界観を、より臨場感を持って表現している。特徴的なのが光の美しさで、まるで作品の中に光源が仕込まれているのではないかと錯覚するほどだ。
「エラルタ」広報部長のエカテリーナ・アトヤン-ミリュコーワさんによれば、常設展ではロシアの現代美術家の作品を、企画展では海外の最も旬なアーティストの作品を紹介しており、今回の大畑さんの個展はエラルタ側のオファーで実現した。
エカテリーナさん「私たちの学芸員の一人がアジアで行われたグループ展覧会で大畑さんの作品を見て、非常に感銘を受け、個展を開催するに至りました。アジア以外の地域で、ロシアやヨーロッパに向けて、私たちが大畑さんの作品を一番に紹介することができるのは、大変名誉なことです。」
一般公開前日、メディア内覧会には多くの記者たちが集まった。展示室の天井は桜で美しく飾られ、日本にいる大畑さんとオンライン中継で質疑応答が行われた。
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会場からは「立体作品はどんな素材からできているのか」「影響を受けた映画監督はいるか」「作品に登場する女の子のモデルはいるか」など、たくさんの質問が出て、大畑さんはひとつひとつ丁寧に答えていた。
特に関心が集まった2次元と3次元を組み合わせる作風について大畑さんは「一時期、絵が描けなくなった時期がありました。何を描きたいのかわからなくなって、自分が絵でやりたいことをもう一度考え直しました。絵の中にある「空気」みたいなものを、見る人に体感してほしい。見る人も参加できるような作品を作りたいと思い、舞台の演出を見て、今の作風を考えつきました」と振り返り、スタイルを模索していた時期があったことを明かした。
映画の写真を見て、映画全体のストーリーを想像するのが好きという大畑さん。それと同じように、自身の作品はワンシーンにすぎないが、そのシーン全体の始まりと終わりまでを、見る人が想像して楽しんでくれるような作品を作りたいと話す。
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好きな場所は?という質問に、大畑さんは「東京タワー」と答えた。多くの上京してきた日本人にとって、東京生活の希望、あるいは失望のモチーフである東京タワーは、今回出展された大畑さんの作品に登場している。薄暗い展示室で、大畑さんの描いた東京タワーはひときわ美しい輝きを放っている。大畑さんによれば、光を美しく描くには、影の部分を丁寧に描くことが重要だという。
ロシアで展覧会をすることになり、ロシア美術に関心を持った大畑さん。「自然に対する敬意や崇拝が感じられる作品が多く、日本人の感覚と近いものを感じた」と話し、ソ連アニメ「霧の中のハリネズミ」で知られるユーリー・ノルシュテインの名を挙げ「ちょっと悲しいところは、自分の作品とも近いものを感じる」と述べた。
「エラルタ」は毎年40回にわたって様々な企画展を開催しており、大畑さんの個展は今年の目玉企画のひとつだ。およそ1500円の1枚のチケットで、1年間有効、40種類の展覧会に参加できるという他に類を見ないアプローチで、芸術をさらに身近なものにしている。
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