大川さんによると、ダンサーがロシアで踊るのには多くの理由があるという。そのひとつが、この国ではバレエが、他の国にありがちな副業ではなく、本職として成り立つという経済的保護と社会的ヒエラルキーだ。「また政治的な結びつきがあるのもロシアのバレエの特徴です。芸術にお金を使うことで、ロシアという国の力を見せるという役割がバレエに求められています。国立劇場は必然的に層が厚くなり、総裁を始め、いろんな部署があり、必ず政治家や文化省の人達と結びついています。そして僕達ダンサーは国家公務員でもあります。トップのダンサーにはロシア人民芸術家という称号が与えられ、そうなると他のダンサーとは扱いが全く違ってきます。一流芸能人のようになって、いろんな分野の人と交流を持ったり、中には政治家になる人もいます。」
宮庄さんによると、ロシアと日本では、ダンサーの地位だけでなく、バレエそのものに対する考え方が違うという。「ロシアではバレエは劇場へ足を運び観て、聴いて、感じて楽しむ芸術として親しまれていますが、日本では習い事としての位置付けが強いと感じます。見るとしても幕物やコンサートを劇場でみるのではなく映画やテレビの題材として目にする人が殆どではないのでしょうか。また、日本ではバレエダンサーの収入だけでは生計を立てられないと聞いていたので日本で踊る選択肢はありませんでした。」
ロシア人のお酒好きは事実の部分も多いが、それでも大川航矢さんは、信じてはいけないステレオタイプもあると言う。「恥ずかしがり屋なところでしょうか。ロシアの人々は無愛想に見える時もありますが、シャイなだけなのだと思います。初対面の人に対して自分からは心を開かないところは似ているかも。フレンドリーとは真逆で奥手なイメージがあります。あと博識の人が多いところ。皆、何かに興味を持って勉強をするのが好きだと思います。歴史も好きで、話していると「○○年にあの戦争があったけどー」と普通にするので、驚きます。」
ロシアに来るまでは、ロシア人は気難しい、冷たい、よくお酒を飲む人という一般的なイメージを抱いていたという宮庄さん。「気難しい方やよくお酒を飲む方はおられましたが、13年住んでみるとロシア人のイメージはガラリと変わりました。とても温かく、世話好きで、人懐っこい、女性は美意識が高く、男性は女性への気遣いが素晴らしいと思います。」いまは次のように考えているという。「ロシアは芸術も、観光も、食事も楽しめますが、何より人と人との繋がりを大切にする文化をもった素敵な国だと伝えたいです。上下関係を大切にするところや、親切な人が多く日本の田舎を思い出すこともありました。」
「ステレオタイプというとロシア人は怖い、ロシアは寒い、みんなウォッカを飲んでいる、ロシア人は美人が多い、あたりでしょうか…。ロシア人は怖いという点は全く違うと思います。むしろとても優しい印象を受けます。骨格的に目と眉毛が近く、更に文化的背景の違いから初めから相手の下手に出るような事はしないので、なんとなく怖い、印象はありましたが、話せるようになればみんなフレンドリーです。また意見をはっきりと主張するのと声が比較的大きいので日本人からすると怒っているように見えるかも知れませんが、彼らにとってはとても普通のことで、むしろ意見を言わないと、何を考えてるか分からないとイライラさせてしまいます。喧嘩ではなく意見の主張の仕合が多いので、若干ピリッとしても、次の日には元通り、という光景を何度も目にしてきました。ロシア人は優しいです。」
「まだロシアに来たことのない人はきっと「寒い」「金髪」「ウォッカ」などの単語が頭に出てくると思いますが、実際は違うところがたくさんあります。
ロシアにも夏がしっかりとあり、今だと日本よりも気温が高い日もあります。しかし家にはクーラーがないのでとても暑いです。
金髪の人もいますが、僕の知り合いでは染めて金髪にしてる人がほとんどで、地毛が金髪の人は少ないと思います。そしてアジア系の人たちもたくさんいます。最初の頃は日本人や中国人がたくさん来てるのだと思っていました。
ウォッカは飲みますが他のお酒の方がよく飲んでいると思います。劇場の打ち上げなどでもウォッカ、シャンパン、ウィスキー、コニャックなどが用意されますが一番最後まで残っているのはウォッカです。」
「ロシアが寒いという事については全く異論はありません。ウォッカは思っているより皆さん飲んでいませんが、やはりお祝い事になるとウォッカが多いのでイメージは間違っていないかもしれません。そしてロシア女性は確かに皆さんモデルさんかアイドルの様に美しいです。
あまりロシアは日本に正しく知られていませんが、すごく近代的です。勿論広大なので大自然も魅力的ですし、人が優しい国だと思います。そしてなにより踊り、音楽、建築等の芸術は素晴らしい国です。共通点は宴会事が好きな事でしょうか。あとは両国とも伝統ある国ですので、古い言い伝えやことわざを大切にしている部分があると思います。先人達への畏敬の念や尊敬する心は両国とも持っている部分だと思います。」
「あと日本では誕生日の人にみんながお祝いをしますが、ロシアでは誕生日の人が周りの人におもてなしをします。劇場での新入りの人たちのお祝いもその人たちが準備します。
そしてこの間、僕も誕生日だったのでいくつかのお酒とおつまみを買って劇場の男の子を呼んで小さい飲み会を開きました。もちろんウォッカは買わずに。」